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脳梗塞リハビリの歩行訓練|目標歩数は?論文を基に専門家が効果と注意点を解説

脳梗塞を発症された後、多くの方がリハビリの目標として「再び歩けるようになりたい」と強く願われます。ご本人様はもちろん、支えるご家族様にとっても、「歩行」は生活の自立度や質に直結する、非常に重要なテーマです。

しかし、リハビリを進める中で、

「一体、毎日どれくらい歩けばいいのだろう?」

「がむしゃらに歩くだけで、本当に良くなるのだろうか?」

「転んだらどうしよう…」

といった疑問や不安に直面することも少なくありません。

この記事では、脳卒中リハビリの専門家である我々が、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づきながら、脳梗塞後の歩行訓練における目標設定の考え方や、安全で効果的な実践方法、注意点について詳しく解説します。

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あなたの状態に合わせたリハビリ計画について、まずは専門家に相談してみませんか?ニューロスタジオでは、脳卒中リハビリの専門家が、お電話やフォームにてご相談に応じています。

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脳梗塞後のリハビリ、目標となる「歩数」は?最新研究が示す驚きの目安

まず、「健康のためにはたくさん歩くことが良い」というのは広く知られていますが、具体的にどれくらいの歩数が理想なのでしょうか。この点について、非常に興味深い日本の研究報告があります。

健康な成人の目標は1日9,000〜11,000歩【日本の最新論文】

2024年に発表された日本の大規模な調査研究では、日常的な歩数と「健康寿命」との関連が分析されました。その結果、以下のことが示唆されています。

  • 活動制限の軽減: 1日あたり9,000歩までは、歩数が多いほど活動が制限されるリスクが低い
  • 自覚的な健康度の改善: 1日あたり11,000歩までは、歩数が多いほど「自分は健康だ」と感じる割合が高い

この研究は、健康寿命を延ばすための具体的な目標として「1日約9,000歩以上」が一つの目安になる可能性を示しています。

なぜ「歩数(身体活動量)」が脳梗塞後のリハビリで重要なのか

この結果は健康な成人を対象としたものですが、脳梗塞後のリハビリにおいても「身体活動量を増やすこと」は極めて重要です。歩数を増やすことには、以下のような多くのメリットが期待できます。

  • 心肺機能の向上と体力維持
  • 使わないことによる筋力低下(廃用症候群)の予防
  • 全身の血流改善
  • 骨粗しょう症の予防
  • 脳への適度な刺激による脳機能の活性化(神経の可塑性)

このように、歩くという行為は、単に移動能力を高めるだけでなく、全身の健康状態を維持・向上させ、ひいては脳の回復を促す土台作りにも繋がるのです。

また、活動量を考えていく際には運動負荷の視点も必要です。

【要注意】論文の目標歩数を鵜呑みにしてはいけない理由

ここで、脳卒中リハビリの専門家として、最も強調したい点があります。それは、「9,000歩」という数値を、そのままご自身の目標にしてはいけないということです。

脳卒中当事者と健康な成人の身体的な違い

脳梗塞を発症された方のお身体は、健康な方とは大きく異なります。

  • 片麻痺による筋力低下や運動の困難さ
  • 感覚障害による足の裏の感覚の鈍さ
  • バランス能力の低下
  • 疲れやすさ(易疲労性)

これらの要因がある中で、無理に歩数を稼ごうとすると、かえって身体を痛めたり、転倒したりするリスクが高まります。

「量」より「質」が大切なリハビリ初期の歩行訓練

特にリハビリの初期段階では、歩く「量」よりも、一歩一歩の「質」が何よりも重要になります。

麻痺が残る足で無理に歩こうとすると、足を棒のようにして外側に大きく振り出す(ぶん回し歩行)など、非効率な歩き方(代償動作)が癖になってしまうことがあります。

麻痺の改善なく歩き続けることのリスクとは

質の低い歩き方を続けていると、以下のようなリスクが生じます。

  • 異常な筋肉の緊張を高めてしまう
  • 膝や股関節など、他の部位に痛みが生じる
  • 非常に疲れやすく、長距離を歩けない
  • 悪い歩き方の癖が固まってしまい、後から修正するのが難しくなる

まずは麻痺した手足の機能回復を促し、できるだけ効率的で安定した「質の高い歩き方」を身につけること。その上で、徐々に歩く距離や歩数を増やしていくことが、長期的に見て最も効果的なアプローチなのです。

科学的根拠に基づく脳梗塞リハビリ|歩行訓練の3つの効果

専門家による適切なサポートのもとで「質の高い歩行訓練」を進めることには、素晴らしい効果が期待できます。

効果①:身体機能の改善と再発予防への貢献

正しい歩行訓練は、歩行速度や持久力を改善するだけでなく、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の管理にも繋がります。これらは脳梗塞の主要な危険因子であるため、ウォーキングを習慣にすることは脳梗塞の再発予防という観点からも非常に重要です。

効果②:高次脳機能や抑うつなど精神面への好影響

歩行中は、景色や音、地面の感覚など、様々な情報が脳にインプットされます。この適度な刺激が脳を活性化させ、注意障害をはじめとする高次脳機能障害の改善にも良い影響が期待できます。

また、体を動かすことによる爽快感や「ここまで歩けた」という達成感は、塞ぎ込みがちになる気持ちを前向きにし、リハビリへの意欲を高めてくれます。

効果③:ADL(日常生活動作)の向上と介護負担の軽減

安定して歩けるようになると、「家の中を自由に移動できる」「一人でトイレに行ける」「近所のスーパーまで買い物に行ける」など、日常生活で行える活動(ADL)の幅が大きく広がります。

ご本人の自立度が高まることは、生活の質(QOL)を大きく向上させると同時に、介護をされているご家族の身体的・精神的な負担軽減にも直結します。

【実践編】安全かつ効果的な歩行リハビリ(散歩)の始め方

では、実際にどのように歩行リハビリを始めればよいのでしょうか。

自己判断は禁物です

これからご紹介するのは一般的な進め方です。お一人おひとりの状態によって最適な方法は異なります。ご自身の状態に合ったリハビリ計画について専門家のアドバイスを受けたい方は、ぜひ一度ニューロスタジオにご相談ください。

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ステップ1:まずは専門家による「歩行の質」の評価

繰り返しになりますが、最初の一歩は、ご自身の歩き方がどういう状態にあるのかを、脳卒中リハビリの専門家(理学療法士など)に評価してもらうことから始まります。どこに問題があり、どうすれば改善できるのかを正確に把握することが、効果的なリハビリの土台となります。

ステップ2:短時間・短距離から始めるための目標設定

専門家のアドバイスのもと、まずは無理のない範囲で「スモールステップ」の目標を立てましょう。

  • 「まずは家の廊下を1往復してみる」
  • 「家の前の電柱まで歩いてみる」
  • 「5分だけ家の周りを歩いてみる」

大切なのは、歩数という数字に囚われるのではなく、「昨日より少し遠くまで行けた」「前よりふらつかずに歩けた」といった小さな成功体験を積み重ねることです。屋外での歩行訓練と合わせて、室内でできる自主トレーニングのメニューも取り入れるとさらに効果的です。

最近はスマホアプリで自主トレーニングのメニューを提示したり、継続に向けた管理などができるようなツールも増えてきています。

NEUROスタジオでもYoutubeなどの動作指導や自主トレーニングを発信しております。是非チェックをよろしくお願いします。

ステップ3:ご家族ができるサポートと安全な環境設定

ご家族のサポートは、ご本人にとって大きな力になります。

  • 環境整備: 家の中の段差をなくす、手すりを設置する、滑りにくい履物を準備するなど、転倒のリスクを減らす工夫をしましょう。
  • 付き添い: 最初は一緒に歩き、不安な時にすぐ支えられる位置で見守ってあげてください。ただし、過度に手を貸しすぎず、ご本人の力で歩くのを見守る姿勢も大切です。
  • 声かけ: 「今日は良い天気だから少し歩いてみない?」といった前向きな声かけや、歩けた後の「頑張ったね」という労いの言葉が、ご本人のモチベーションに繋がります。

歩行リハビリを安全に進めるための5つの注意点

1. 適切な装具や杖を正しく選択・使用する

足首が不安定な場合は、短下肢装具などが必要になることがあります。ご自身の足の状態に合わせた**最適な短下肢装具の選び方**については、必ず専門家にご相談ください。

2. 転倒リスクの高い場所や状況を避ける

人混み、濡れた路面、暗い夜道、小さな段差など、転倒しやすい場所は避けましょう。

3. 無理は禁物!疲労や痛みのサインを見逃さない

少しでも足に痛みを感じたり、強い疲労を感じたりした場合は、無理せず休憩しましょう。「頑張りすぎ」は逆効果です。

4. 天候や時間帯、ルート選びのポイント

夏の暑い日中の外出は避け、水分補給をこまめに行いましょう。また、交通量が少なく、歩き慣れた平坦な道を選ぶのが安全です。

5. 定期的に専門家のチェックを受ける

身体の状態は日々変化します。定期的に専門家に歩き方をチェックしてもらい、その時々の状態に合ったリハビリ内容に調整していくことが重要です。

まとめ:あなたに合った歩行目標で、諦めない未来への一歩を

今回は、最新の論文を参考にしながら、脳梗塞後の歩行リハビリについて解説しました。

  • 健康な成人の場合、1日9,000歩以上が健康寿命の延伸と関連する可能性が示唆されている。
  • しかし、脳梗塞当事者の方はこの数値を鵜呑みにせず、「量」より「質」を重視することが最重要。
  • 質の高い歩行訓練は、身体機能の改善や再発予防、QOL向上に繋がる。
  • 安全に進めるためには、専門家による評価と、ご自身の状態に合った目標設定が不可欠。

歩行能力の改善は、決して簡単な道のりではありません。しかし、正しい知識を持ち、専門家と協力しながら、あなたに合ったペースで「質の高い一歩」を積み重ねていくことで、改善の可能性は十分にあります。

この記事が、あなたの未来への一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


一人で悩まず、私たちにご相談ください

ニューロスタジオには、脳卒中認定理学療法士をはじめ、豊富な知識と経験を持つ専門家が多数在籍しています。海外研修で得た世界水準の知見を活かし、あなたの「歩きたい」という想いに全力で応えます。


参考文献

Nishi M, Nagamitsu R, Matoba S. Association between daily step counts and healthy life years: a national cross-sectional study in Japan. BMJ Open. 2024;14(5):e081938. Published 2024 May 13. doi:10.1136/bmjopen-2023-081938


執筆者情報

磯俣志隆(いそまた しりゅう)
ニューロスタジオ大阪 理学療法士

主要経歴
2018年 理学療法士免許取得
2018年 社会医療法人美杉会 男山病院リハビリテーション部勤務
2019年 社会医療法人美杉会 介護老人保健施設 美杉リハビリテーション部勤務 2022年 社会医療法人大道会 森之宮病院リハビリテーション部勤務
2023年 臨床実習指導者講習会修了
2024年 NEUROスタジオ 常勤勤務開始 ボバース概念基礎講習会修了
2025年 ドイツにてボバース概念上級講習会修了

現在の活動
ニューロスタジオ大阪での脳卒中専門リハビリ
療法士向け教育・指導活動
Instagram、TiktokなどSNSで理学・作業療法士向けの学術情報を精力的に発信

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