今回はMindy F. Levinら(2016)の論文をご紹介します。
背景
脳卒中後の上肢機能障害は、急性期・亜急性期を過ぎても多くの患者に残存します。中枢神経系には大きな神経可塑性の可能性があるため、慢性期においても上肢機能の回復は継続する可能性があります。近年、運動機能の改善が真の機能回復によるものか、代償的な動作パターンによるものかを区別するための定量的な動作分析方法が注目されています。
目的
上肢の屈筋共同運動が到達運動の制限要因となっているのか、あるいは代償的に働いているのかを明らかにすること
方法
対象:左半球脳卒中患者16名(軽度群7名、中等度/重度群9名)と年齢を一致させた健常者8名
方法:座位で3つの異なる方向(同側、正中、対側)に設置されたターゲットに向かって上肢到達運動
評価項目:腕平面の動き、上肢関節、体幹の動きとそれらの時間的・空間的な関連性を分析

結果
・中等度/重度群は、軽度群や健常群と比較して、より大きな腕平面の動きと代償的な体幹運動を使用
・脳卒中患者群では、体幹と腕平面の動きの時間的な結合が健常群よりも強く見られる
・到達精度は各グループとターゲットによって異なる要因と関連:
健常群と軽度群:腕平面の動き 中等度/重度群:体幹と肘の動き
・腕平面の動きは発症からの時間経過とともに増加し、体幹回転と組み合わさることで、中央および対側へのリーチ動作において異なる被験者群を区別できる

図は代表的な被検者(健常者、軽度群、中等度/重度群)の到達運動パターン
健常者は滑らかで一貫した速度パターン(A)であり、体幹の動きが最小限で協調的(D)
軽度群は健常者に比べるとスピードに若干の変動性がある(B)。リーチは直線的だが最小限の体幹移動がみられる(E)
中等度〜重度群は、明らかに遅い動作速度で滑らかさが低下(C)、リーチは曲線的となり、顕著な体幹移動と方向による軌跡のばらつきがある(F)
結論と展望
損傷を受けた脳卒中後の神経システムは、利用可能な最も効果的な運動戦略を使用しようとします。軽度の運動機能障害を持つ患者では、ある程度の運動適応性が保たれているため、肩の戦略が最も効果的です。しかし、重度の障害を持つ患者では、腕平面の動きの適応性が低下し、より多くの代償的な運動戦略を使用することになります。
適応的な共同運動を使用することの利点は、関節の独立した動きに制限があっても機能的なタスクを達成できることですが、一度確立された適応戦略は、分節化された運動パターンを回復しようとする際に分解することが困難になる可能性があり、これは「学習された誤用」と考えられる可能性があります。
これらの知見は、リハビリテーションにおける治療戦略の立案に重要な示唆を与えるものと考えられます。
参考文献
Mindy F. Levin et al. Compensatory Versus Noncompensatory Shoulder Movements Used for Reaching in Stroke .2016
NEUROスタジオ東京 山岸