
💡この記事の要約:脳卒中 上肢評価 連続リーチ
脳卒中片麻痺者の上肢機能において、単発のリーチができても連続動作でパフォーマンスが低下するケースは少なくありません。Massieらの研究によると、麻痺側では反復動作により体幹代償の増加や近位筋(三角筋・三頭筋)の出力不全が顕著に現れます。本記事では、連続リーチ課題を用いたスクリーニングの意義と、姿勢制御への介入戦略について解説します。
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Contents
臨床現場において、「Fugl-Meyer Assessment(FMA)のスコアは良好なのに、日常生活で手が使えない」という乖離に悩むことはないでしょうか。
その原因の一つとして、従来の評価の多くが「単発の動作(離散運動)」に焦点を当てており、日常生活で求められる「連続的な動作(連続運動)」の制御能力を見逃している可能性が挙げられます。
今回は、Massieらによる2012年の研究Massie et al. (2012)を紐解きながら、連続リーチ課題を用いたスクリーニングの意義と、そこから見えてくる「姿勢活動」への介入戦略について考察します。
関連記事:脳卒中後の上肢機能における重力の影響と筋力低下との関係
なぜFMAが高得点でも「使えない手」になるのか?
日常生活動作(ADL)は、単発の動きの積み重ねではありません。常に運動出力と感覚フィードバックの相互作用が求められる連続的なプロセスです。
しかし、脳卒中リハビリテーションの研究の多くは、明確な開始点と終了点を持つ「離散的なリーチ課題」に焦点を当ててきました。
単発リーチ評価で見逃される「制御の破綻」と疲労の影響
単発のリーチ動作が可能であっても、それを反復した際に運動制御がどのように変化するかは別問題です。
連続リーチ(Continuous Reaching: CR)は、単なる離散運動の連結ではなく、周期的な要素と並進的な要素の複雑な相互作用を含みます。このため、神経系への要求課題が異なり、単発評価では見えなかった運動障害が浮き彫りになることがあります。
関連記事:【臨床応用】リーチ動作の質を高める予測的姿勢調節(APA)の神経基盤
臨床疑問:回数を重ねるごとに悪化する過緊張と分離不全の正体
臨床感覚として、1回目のリーチはきれいな軌道で遂行できても、3回、5回と繰り返すうちにフォームが崩れていく症例を経験します。
これは、動作の反復に伴う疲労や、予測的姿勢調節(APA)の破綻が関与していると推察されます。回数を追うごとに体幹の安定性が失われ、それを補うために末梢の過緊張が高まったり、分離運動が乏しくなったりする現象です。

Massie et al. (2012) が示す連続リーチの運動学的エビデンス
では、実際に連続リーチを行った際、脳卒中片麻痺者の運動はどのように変化するのでしょうか。Massieらは、脳卒中サバイバー16名を対象に、2つのターゲット間を5回連続でリーチする課題を行い、その運動学的特性を分析しました。
データが証明する「体幹代償」の増加と肩・肘可動域の減少
研究の結果、麻痺側でのリーチ動作は非麻痺側と比較して、以下の特徴が明らかになりました。
- 体幹代償の増加: 体幹の前屈および回旋が有意に増加しました。
- 関節可動域の減少: 肩関節屈曲と肘関節伸展の可動域が有意に減少しました。
特に肘関節伸展は、麻痺側では非麻痺側の約半分程度の可動域に留まるケースが見られました。これは、遠位へのリーチを達成するために、肘の伸展不足を「体幹の前方移動と回旋」で代償していることを示唆しています。

滑らかさを失う理由:ゼロ速度交差数と機能評価スコアの相関
動作の「滑らかさ(Smoothness)」を評価する指標として、速度プロファイルにおける「ゼロ速度交差数(Zero-velocity crossings)」が用いられました。これは、動作の切り返しや修正が多ければ多いほど数値が増加します。
結果として、麻痺側ではゼロ速度交差数が有意に多く、動作の滑らかさが低下していることが示されました。
興味深いことに、この「滑らかさの欠如」は肘関節伸展の可動域と負の相関(肘が伸びないほど滑らかさが失われる)を示しており、肘の制御能力が動作全体の質に直結していることが分かります。
また、ピーク速度自体には麻痺側と非麻痺側で有意差は見られませんでした。しかし、動作全体の所要時間は麻痺側で有意に延長しており、これは加速・減速フェーズの制御に時間を要していることを示唆しています。

筋活動パターン(MAP)から見る「出力不全」の正体
運動学的変化の背景には、どのような筋活動の変化があるのでしょうか。
近位筋(三角筋・三頭筋)の出力不全がもたらす運動連鎖の崩れ
臨床ではしばしば「痙縮(過緊張)」に目が向きがちですが、Massieらの研究では、麻痺側における「筋活動の低下」が顕著な要因として挙げられています。
- 三角筋: 前部・中部・後部繊維ともに、麻痺側では活動量が有意に低下していました。
- 上腕三頭筋: 特に「戻り(Return)」の減速フェーズにおいて、活動低下が見られました。
臨床での解釈:過緊張の裏にある「弱さ」
これらのデータは、リーチ動作の拙劣さが単なる「拮抗筋(上腕二頭筋など)の過緊張」によるものではなく、主動作筋および近位筋の「出力不全」に起因している可能性を強く示唆しています。
実際に、本研究では動作中の二頭筋の過活動は確認されませんでした。臨床において、「力が入りすぎている」ように見える現象も、実は近位筋の出力不足を補うための過剰な努力性代償である可能性があります。
臨床応用:連続リーチをスクリーニングとして活用する戦略
以上のエビデンスを踏まえ、明日の臨床で連続リーチ課題をどのように活かすべきでしょうか。
リーチ開始前の「姿勢活動」とAPA(予測的姿勢調節)への着目
この研究は、連続リーチ課題が脳卒中後の運動障害の重症度を把握するスクリーニングとして有用であることを示唆しています。
臨床で5回程度の連続リーチを行う際、単に「手が届いたか」だけでなく、「回数を重ねても姿勢(体幹)が崩れないか」に着目してください。
1回目は代償なく行えても、反復に耐えられず体幹の前屈や回旋が強まる場合、それはAPA(予測的姿勢調節)の予備能が低下しているサインです。この場合、上肢そのものの訓練に入る前に、反復に耐えうる「座り方(姿勢土台)」の構築が必要になるでしょう。
代償を「許容」するか「介入」するか:リハ頻度と生活背景による線引き
Massieらは、連続リーチのパフォーマンス低下(動作時間の延長など)は、適切な筋活動パターン(MAP)を生成できないことに起因すると述べています。
ここで重要なのは、代償動作を「絶対悪」としないことです。
リハビリの期限や頻度が限られている場合、まずは「課題の達成(ADL自立)」を最優先します。その上で、もし介入の余地があるならば、体幹代償を抑制し、本来の運動連鎖(肩・肘の協調)を促通することで「使い心地(動かしやすさ)」を向上させるアプローチを選択します。
Clinical Action List
本記事の要点を、明日の臨床アクションとしてまとめます。
- スクリーニングへの導入: FMAなどの単発評価に加え、5回連続のリーチ課題を行い、回数ごとの「崩れ(体幹代償の増加)」を評価する。
- 姿勢制御の評価: リーチ動作そのものだけでなく、リーチを開始する前の「姿勢活動」が反復に耐えられているかを確認する。
- 筋活動の再解釈: リーチの停滞を「痙縮」だけで片付けず、三角筋や三頭筋の「出力不全」がないか触診・評価し、促通を図る。
- 滑らかさの視点: 動作のぎこちなさを感じたら、肘関節伸展の可動域制限や制御不全がボトルネックになっていないか確認する。
FAQ(よくある質問)
Q. 連続リーチは何回行えばよいですか?
Massieらの研究に基づき、5回の連続動作を行うことを推奨します。回数を重ねるごとの体幹代償の出現やフォームの崩れを観察してください。
Q. FMAのスコアが良いのに手が使えないのはなぜですか?
単発の動作能力(FMAなど)と、日常生活で必要な連続動作能力は異なるためです。連続動作では姿勢制御や筋活動の素早い切り替えが必要となり、単発評価では見えない「出力不全」や「代償動作」が出現することがあります。
参考文献
- Kinematic Motion Analysis and Muscle Activation Patterns of Continuous Reaching in Survivors of Stroke (脳卒中サバイバーにおける連続リーチ動作の運動学的分析および筋活動パターン)
Crystal L. Massie et al. (2012)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22647246/
執筆者情報
三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士
主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年 論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』
2022年. 書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法
p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス
その他経歴
2016年 ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任
2025年 株式会社i.L入職 NEUROスタジオ千葉の立ち上げ
現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動
千葉ハンドリングセミナー共同代表
