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麻痺側の筋活動が約30%変わる「最初の一歩」の法則|脳卒中歩行におけるAPA(予測的姿勢制御)

NEUROスタジオ大阪・東京・千葉 臨床実践コラムのアイキャッチ画像。タイトルテキスト:「麻痺側の筋活動が約30%変わる『最初の一歩』の法則|脳卒中歩行におけるAPA(予測的姿勢制御)」。青とティールの幾何学的な脚の形状に対し、鮮やかなオレンジ色の矢印が斜めに走り、APAによる床反力作用と筋活動の「+30%」増加をバウハウス調のグラフィックで表現している。

💡この記事の要約:脳卒中 歩行開始 APA

脳卒中片麻痺患者の歩行練習において、あえて困難な「非麻痺側からの歩き出し(麻痺側支持)」を選択することで、麻痺側前脛骨筋の活動が約30%増大するという研究結果があります。静止立位での均等荷重練習だけでは改善しないAPA(予測的姿勢制御)を活性化させるには、ヒラメ筋の抑制とCoP(足圧中心)の後方移動を促す課題特異的なトレーニングが必要です。

はじめに

臨床現場において、多くの脳卒中片麻痺患者は「麻痺側」から一歩目を踏み出すパターンを呈します。

この現象に対し、多くのセラピストは歩行速度や自立度の獲得を優先するあまり、修正を加えず黙認している傾向にあります。あるいは、「まずは出しやすい方から」と、麻痺側ステップを推奨さえしているケースも見受けられます。

しかし、APA(予測的姿勢制御)を伴わないこの歩行開始パターンを放置することは、長期的には非麻痺側の過剰努力を助長し、患者の身体機能を蝕む遠因となり得ます。

本記事では、なぜ「最初の一歩」の足選びが重要なのか、その神経生理学的メカニズムと、臨床で実践すべき課題特異的な指導戦略について深掘りします。

関連記事:脳梗塞リハビリの歩行訓練|目標歩数は?論文を基に専門家が効果と注意点を解説

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【臨床疑問】なぜ「最初の一歩」への無関心が、予後を悪化させるのか

麻痺側ステップ=「麻痺側荷重の逃避」という事実

患者が麻痺側から足を出す(非麻痺側を軸足にする)最大の理由は、麻痺側下肢で身体を支える機能、すなわちAPA(予測的姿勢制御)が破綻しているためです。

本来、歩き出し(Gait Initiation: GI)においては、ステップする足と反対側の足へ重心を移動させるAPAが先行します。しかし、脳卒中患者ではこのAPAが欠落または遅延しやすいため、無意識に「支えられる方の足(非麻痺側)」に重心を乗せ、逃避的に麻痺側を振り出してしまうのです。

これをセラピストが黙認することは、麻痺側の学習性不使用を容認しているに等しいと言えます。

見かけの歩行速度と引き換えに失うもの

確かに、麻痺側を振り出す戦略をとれば、歩行速度自体は短期的に向上するかもしれません。しかし、それはAPA(麻痺側での姿勢制御)を無視し、非麻痺側の過剰な努力によって推進力を得ているに過ぎません。

このような代償動作を繰り返して「ガンガン歩かせた」結果、生活期に入ってから以下のような問題に直面するケースが後を絶ちません。

  • 連合反応の増強による異常な筋緊張
  • 非麻痺側の過使用による疼痛
  • 麻痺側の関節拘縮

これらは、初期の段階で「質の高い一歩」よりも「移動の手っ取り早さ」を優先したことによる、負の遺産と言えるでしょう。

【エビデンス1】「静的対称性」の罠と課題特異性

多くのセラピストは、まず静止立位での左右均等な体重配分(Symmetrical Weight Bearing: SWB)を目指します。これはアライメントを整える上で重要なプロセスですが、実は「それだけでは歩行開始(GI)の質は変わらない」という厳しい現実があります。

「きれいに立てる」ことと「動ける」ことは別物

Koら(2011)の研究において、視覚的フィードバックを用いて静止立位時の体重配分を完全な対称(50:50)に修正させた状態で歩き出しを行わせても、麻痺側下肢の筋活動タイミングや床反力のパターンには有意な改善が見られなかったと報告されています。

これは、静止立位を制御する神経機構と、歩き出し(GI)という動的な移行相を制御する中枢指令(Central Command)がリンクしていないことを示唆しています。つまり、鏡の前でいくら姿勢を正しても、いざ動き出そうとした瞬間にAPAが機能するという保証はないのです。

したがって、APAの改善には、静的な荷重練習だけでなく、動きを伴う課題特異的なトレーニング(=あえて非麻痺側から踏み出す練習)が必要不可欠となります。

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【エビデンス2】非麻痺側ステップが筋活動を30%変える理由

では、動的な課題として「非麻痺側からの歩き出し(=麻痺側を軸足にする)」を選択することで、具体的に何が変わるのでしょうか。

神経メカニズム:ヒラメ筋の抑制とTAの発火

正常な歩行開始時、APAフェーズでは下腿三頭筋(ヒラメ筋)の活動抑制が先行し、続いて前脛骨筋(TA)の活動が起こることで、身体重心を前方へ加速させる準備が整います。しかし、脳卒中患者ではこの「ヒラメ筋の抑制」が不十分であり、TAとの同時収縮や活動遅延が生じやすくなっています。

Koらのデータによれば、非麻痺側を一歩目として踏み出す(=麻痺側でAPAを行う)課題を行った場合、麻痺側TAの活動振幅が約27〜36%増加することが確認されました。これは、強制的に麻痺側での制御を要求する課題設定が、潜在的な運動単位の動員を強力に促した結果と考えられます。

動作分析の鍵:失われた「後方への重心移動」

もう一つ見逃せないのが、CoP(足圧中心)の軌跡です。身体を前に進めるためには、作用反作用の法則により、CoPは一度「後方(かつ支持脚側)」へ移動する必要があります。

Sousaら(2015)Delafontaineら(2019)の研究では、脳卒中患者はこの「CoPの後方移動(Backward shift)」が著しく低下していることが示されています。

CoPが後ろに行かないということは、前への推進力が生まれにくhttps://www.ilneurostudio.com/2149/いことを意味します。これが、歩行速度の低下やストライドの短縮を引き起こす根本的な力学的要因です。非麻痺側ステップ練習は、この「踵で床を捉え、CoPを後ろに引く」感覚を再学習させるためにも極めて有効です。

【臨床応用】APAを機能させる「本質的なステップ」戦略

以上のエビデンスから、単に「いい方の足から出して」と口頭指示するだけでは不十分であることがわかります。APA(ヒラメ筋抑制、TA発火、CoP後方移動)を誘発するための環境設定とハンドリングが不可欠です。

壁面を利用した垂直性の担保と荷重練習

まず、患者の恐怖心を取り除き、代償動作を抑制するために、壁を利用します。

  1. 環境設定: 患者に壁を背にして立ってもらう、あるいは壁側に麻痺側が来るように配置します。
  2. 垂直性の担保: 壁に軽く触れる、またはもたれることで、体幹と股関節の垂直性を保ちます。これにより、恐怖心による屈曲姿勢や、過剰な側屈を抑制します。
  3. APAの誘導: その状態で、麻痺側への重心移動を促します。単に「横に乗せる」のではなく、踵で床を感じ、一瞬CoPを後方へ引くような感覚(背屈の準備)を意識させます。

近位部の安定性補償と選択的運動

壁での安定が得られたら、実際のステップ動作につなげます。

  • ハンドリング: セラピストは麻痺側の股関節や大腿部を把持し、近位部の動揺を抑えて安定性を補償します。
  • 選択的運動: 股関節が安定した状態で、非麻痺側を一歩踏み出させます。この時、麻痺側の足部で床を捉え、足関節の選択的な底背屈(TAの活動)が協調して起こるかを確認します。

重要なのは「ステップできたか」ではなく、ステップの瞬間に「麻痺側で適切に制御(APA)できたか」です。静止立位での見かけの対称性に惑わされず、動きの中での質を評価してください。

FAQ(よくある質問)

Q. なぜ患者さんは麻痺側から足を出したがるのですか?

A. 麻痺側で体重を支えるためのAPA(予測的姿勢制御)が機能低下しており、転倒への恐怖心や逃避反応として、無意識に健側(非麻痺側)で支えようとするためです。

Q. 立位で左右均等に体重を乗せる練習だけでは不十分なのですか?

A. アライメント調整には有効ですが、静的な制御と歩行開始に必要な動的な神経制御(APA)とは回路が異なるため、それだけではスムーズな一歩目には直結しないことが研究で示唆されています。

Q. 「非麻痺側ステップ」の具体的なメリットは何ですか?

A. 麻痺側を軸足にすることで強制的にAPAを誘発し、麻痺側の前脛骨筋(TA)の活動を約30%増大させ、ヒラメ筋の抑制やCoPの後方移動といった重要な運動制御を再学習できます。

Q. APAがうまくいっていないサインはありますか?

A. ステップ動作の前に、重心が一度後ろ(かつ支持脚側)に移動せず、いきなり体を横に倒して足を上げようとする(代償動作)場合、APAが欠落している可能性が高いです。

Q. バランスが悪くても非麻痺側ステップ練習をして良いですか?

A. 転倒リスクがある場合は、壁に背をもたれたり、セラピストが近位部(骨盤や大腿)を介助したりして、垂直性と安定性を担保した状態で実施してください。

まとめ

歩行速度の向上は重要ですが、それが「代償の強化」の上に成り立っているものであれば、将来的な身体機能の損失(機会費用)は計り知れません。

体感として9割の患者が麻痺側ステップを選択してしまう現状だからこそ、我々セラピストは、練習の場において「筋活動が30%変わる一歩」にこだわり、APAの再構築に取り組むべきです。

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執筆者情報

三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士


主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年    論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』 
2022年.   書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法
p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス

その他経歴
2016年  ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任
2025年 株式会社i.L入職 NEUROスタジオ千葉の立ち上げ

現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動
千葉ハンドリングセミナー共同代表

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参考文献

  • Effects of Limb Loading on Gait Initiation in Persons with Moderate Hemiparesis (中等度片麻痺患者の歩行開始における下肢荷重の影響)
    Ko M, Bishop MD, Behrman AL. (2011)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21914601/
  • Anticipatory Postural Adjustments During Gait Initiation in Stroke Patients (脳卒中患者の歩行開始時における予測的姿勢制御)
    Delafontaine A, Vialleron T, Hussein T, Yiou E, Honeine JL, Colnaghi S. (2019)
    https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fneur.2019.00352/full
  • Reliability of two methods for identifying the postural phase of gait initiation in healthy and post-stroke subjects (健常者および脳卒中患者における歩行開始時の姿勢相を特定する2つの方法の信頼性)
    Sousa ASP, Silva A, Santos R. (2015)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25807535/