脳性麻痺とは何か——特に「痙直型両麻痺」と白質損傷について
脳性麻痺(Cerebral Palsy:CP)は、出生前後の脳損傷によって引き起こされる、運動・姿勢の障害です。「非進行性」——つまり損傷自体は進行しませんが、筋の緊張・関節の変形・二次障害は成長とともに変化しうるため、継続的なリハビリが不可欠です。
痙直型脳性麻痺と白質損傷(PVL)の関係
脳性麻痺の約80〜90%は「痙直型(spastic type)」です。特に早産児に多い「痙直型両麻痺」では、脳の側脳室周囲に位置する白質が損傷を受ける脳室周囲白質軟化症(Periventricular Leukomalacia:PVL)が高頻度で認められます。
この白質の中には、脳から脊髄・筋肉へ運動指令を伝える「皮質脊髄路(Corticospinal Tract:CST)」が通っています。CSTが損傷を受けると、筋肉への指令が正確に届かなくなり、痙縮・協調運動の障害・選択的運動制御の低下といった症状が生じます。
なぜ「運動の質」が問われるのか——選択的運動制御とは
脳性麻痺リハビリで近年重視されているのが「選択的運動制御(Selective Motor Control:SMC)」です。これは、特定の関節だけを分離して動かす能力を指します。たとえば、膝だけを曲げようとしても股関節や足首も連動してしまう(共同運動パターン)のは、SMCの低下によるものです。
SMCは歩行速度・協調運動・手術後の機能予後に深く関わることが複数の研究で示されており(Fowler et al., 2009)、「どれだけ動けるか」ではなく「どのように動けるか」という質的な評価軸がリハビリに求められています。
「脳は変わらない」は過去の話——神経可塑性という希望
子どもの脳が持つ可塑性のメカニズム
神経可塑性(Neuroplasticity)とは、脳が経験や練習に応じて神経回路の構造・機能を変化させる能力です。特に発達期の子どもの脳は、この可塑性が成人よりも高いことが知られています。
脳の白質を構成する神経線維は「髄鞘(ミエリン鞘)」と呼ばれる絶縁体に包まれており、この髄鞘の厚みが信号伝達の速度と精度に直結します。近年の研究では、繰り返しの運動練習・課題学習が、髄鞘化(ミエリン形成)を促進することが動物実験・ヒト研究の両面から示されています(Bloom et al., 2022;de Faria et al., 2019)。
つまり、「脳損傷の結果である脳性麻痺」であっても、損傷を免れた神経回路は適切な入力によって強化・変化しうるのです。
なぜ早期・集中的な介入が重要なのか
神経可塑性には「経験依存性」という原則があります。脳は、使われた回路を強化し、使われない回路を刈り込んでいきます。これは発達期において特に顕著です。
国際的な早期介入ガイドライン(Morgan et al., JAMA Pediatrics, 2021)は、0〜2歳のCP高リスク児への早期・集中的・課題特異的な介入を強く推奨しています。一方、学童期以降の子どもでも、適切な集中介入によって神経可塑性が引き出せることを示す研究が増えています。
重要なのは「何歳までに」という制限よりも、「介入の量・質・継続性」です。
保険内リハビリの時間では足りない、もっと専門的なアプローチを試したい——そんなご家族のためにニューロスタジオはエビデンスに基づいた脳神経専門リハビリを提供しています。
最新研究が示した「脳の変化」——MRIで何が見えたのか
研究の概要:どんな子どもが、何をしたのか
2023年にAJNR(American Journal of Neuroradiology)に掲載されたVuongらの研究は、痙直型両麻痺のCP児を対象に、集中的な下肢選択的運動制御プログラム「Camp Leg Power」への参加前後でMRI撮影を行い、脳白質の微細構造変化を分析したものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 痙直型両麻痺CP児 12名(平均年齢11.5歳・早産・PVL合併) |
| 介入内容 | 等速性膝関節運動・足関節ゲーミング・歩行訓練・感覚刺激活動 |
| 介入量 | 3時間/日 × 15セッション × 1ヶ月(総計約45時間) |
| 測定方法 | DTI(拡散テンソル画像):介入前後でMRI撮影・TBSS法による全脳解析 |
| 研究デザイン | 前後比較研究(対照群なし) |
DTIという技術が捉えた白質の変化
DTI(Diffusion Tensor Imaging:拡散テンソル画像)は、脳内の水分子の拡散方向をMRIで計測することで、神経線維の微細構造を非侵襲的に評価できる技術です。本研究では特に「放射状拡散率(Radial Diffusivity:RD)」に注目しました。
RDの低下は、髄鞘化(ミエリン形成)の改善を反映する指標とされています(Song et al., 2002;Lazari & Lipp, 2021)。
結果として、介入後に以下の領域でRDの有意な低下(p<.05)が確認されました:
- 皮質脊髄路(CST):左側内包後脚(28.4%のボクセルで有意差)、右側内包後脚(3.6%)
- 左側上放線冠(14.1%)および左側一次運動野
- 隣接白質領域:内包前脚・外包・前放線冠・脳梁体部・膝部
本研究はn=12の前後比較研究であり、対照群を持たない点が最大の限界です。成長・自然回復との区別は困難で、結果の一般化には慎重を要します。RDの低下=髄鞘化改善という解釈も、ヒトでの直接的な組織学的検証はなく、動物実験に基づく間接的推論です。
研究結果の臨床的意義
第一に、従来のDTI研究が注目していた「FA(分画異方性)」ではなく「RD(放射状拡散率)」で変化が検出された点です。これは、髄鞘化の初期変化はFAより先にRDに現れる可能性を示唆し、先行研究が見逃していた効果を本研究が捉えた可能性があります。
第二に、皮質脊髄路だけでなく脳梁・前放線冠など隣接白質の変化が認められた点です。これは「運動学習に伴う脳の神経可塑性が局所に限らず広域に及ぶ」という神経科学的知見と整合します。
集中介入の「量と質」——効果を生む介入とはどのようなものか
1ヶ月・45時間という介入量が示す意味
本研究の介入量「3時間/日×15セッション」という設計は、通常の保険内リハビリ(週1〜2回・20〜40分)とは桁違いの集中度です。この総計約45時間という用量は、単に「多ければいい」ではなく、神経可塑性を引き出すための閾値を超えることを意図した設計です。
Kleim & Jones(2008)が提唱する「経験依存的神経可塑性の原則」では、「十分な反復と難易度の漸増なしに、脳の構造的変化は起きない」とされています。45時間という用量はこの原則に基づく設計です。
ただし、この用量が日本の通常の外来リハビリ環境で再現可能かという点は慎重に考える必要があります。自費リハビリの文脈において、頻度・時間・期間を設計する際の参考値として活用することが現実的です。
課題特異的練習が髄鞘化を促す理由
本研究の介入は「選択的運動制御」という特定の運動課題に特化していました。等速性膝関節運動・足関節ゲーミング・歩行訓練・感覚刺激という多層的な構成は、単純な筋力トレーニングとは本質的に異なります。
課題特異的・新規性のある複合的運動学習が髄鞘化を促進するというメカニズムは、Bloom et al.(2022)・Baraban et al.(2016)などの基礎研究によっても支持されており、「ただ動かす」のではなく「新しい動かし方を学ぶ」練習が神経回路の質的変化を生むと考えられています。
脳性麻痺リハビリで期待できる具体的な変化
歩行・下肢運動機能への影響
本研究では直接的な歩行速度や筋力の変化は測定されていませんが、DTIで変化が確認された「皮質脊髄路・上放線冠」は、下肢の随意運動制御に直接関与するトラクトです。先行する複数の研究では、これら領域のDTI指標改善と歩行機能の向上に正の相関が認められています。
また、Chaturvedi et al.(2013)は6ヶ月の下肢理学療法後にGMFM(粗大運動機能尺度)の改善とFA増加を同時に報告しており、神経画像変化と機能改善が並走する可能性を示唆しています。ただし本研究ではSCALE(選択的運動制御評価)スコアとDTI変化の間に有意な相関は認められず、神経変化と機能変化の直接的な因果関係については今後のさらなる研究が必要です。
脳梁の変化とミラー運動への関係
本研究で脳梁(Corpus Callosum)の体部・膝部にもRD・MDの低下が認められた点は、臨床的に重要な示唆を持ちます。脳梁は左右半球をつなぐ主要な交連線維で、両側の運動協調に関与します。
脳性麻痺において問題となる「ミラー運動(一方の手足を動かすと反対側も意図せず動く)」は、脳梁機能の低下と関連することが指摘されています(Koerte et al., 2011)。脳梁の髄鞘化改善は、ミラー運動の抑制・両側協調運動の向上につながる可能性があります。
効果には個人差があることについて
重要:本研究はn=12の小規模研究です。効果はGMFCSレベル・年齢・損傷の程度・介入への参加度など、個人の条件により大きく異なります。「すべての脳性麻痺の子どもに同様の変化が起きる」と保証するものではありません。また、本介入はPVLを持つ早産の痙直型両麻痺を対象としており、他のタイプの脳性麻痺への一般化には注意が必要です。
専門的な自費リハビリを選ぶ際に確認すべきポイント
介入の専門性と頻度・量の担保
本研究の知見を臨床に活かすには、以下の条件を満たすリハビリ環境が重要です。
- 脳神経系・小児リハビリに精通した専門セラピストによる評価と介入
- 週複数回・1回あたり60分以上の継続的な介入が可能な環境
- 課題特異的・段階的難易度調整が可能なプログラム設計
- 感覚刺激・運動学習の原則に基づいた多層的アプローチ
- 介入前後の定量的評価による効果の可視化
脳神経系リハビリ専門施設に求められる条件
「脳性麻痺のリハビリ」と銘打つ施設は増えていますが、エビデンスに基づいた介入と、漠然とした運動練習の間には大きな差があります。施設を選ぶ際は以下の点を確認することをお勧めします。
- セラピストの専門資格・継続教育への参加実績
- 学術論文・最新ガイドラインへのアクセスと臨床応用
- 初回評価の丁寧さと目標設定のプロセス
- 家族への情報共有・ホームプログラムの提供
- 脳卒中認定理学療法士が在籍(全国取得率2%)
- 海外研修10回以上のセラピストによる直接指導
- 学術論文に基づくエビデンスの即時臨床応用
- 東京・大阪・千葉の3拠点でご利用可能
お子さんの状態、目標、ご不安——何でもお聞かせください。まずは体験リハビリから始められます。
まとめ
この記事のポイント
脳性麻痺の子どもたちの脳は、適切な集中リハビリによって神経回路レベルで変化する可能性があります。2023年のVuongらの研究は、課題特異的な集中介入(約45時間)の後に、MRIで白質の髄鞘化改善を示すデータを報告しました。
この変化は「すべての子どもに同様に起きる」と断言できるものではありません。しかし「脳は変わらない」という固定観念に対して、科学は明確に「変わりうる」という根拠を提示し始めています。
お子さんのために最善を尽くしたい——そのご家族の想いに、エビデンスに基づいた専門的なリハビリでお応えすることが、私たちニューロスタジオの使命です。
参考文献
- Vuong A, et al. Improved Myelination following Camp Leg Power. AJNR Am J Neuroradiol. 2023;44(6):700-706. DOI
- Fowler EG, et al. Selective Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE). Dev Med Child Neurol. 2009;51:607-14. DOI
- Song SK, et al. Dysmyelination revealed through MRI as increased radial diffusion of water. Neuroimage. 2002;17:1429-36. DOI
- Bloom MS, et al. Motor learning and physical exercise in adaptive myelination. ASN Neuro. 2022;14. DOI
- Morgan C, et al. Early intervention for children with or at high risk of cerebral palsy. JAMA Pediatr. 2021;175:846-58. DOI
- Chaturvedi SK, et al. Comparative assessment of physiotherapy with or without botulinum toxin using DTI in diplegic CP. Brain Dev. 2013;35:647-53. DOI
- Koerte I, et al. Anisotropy of transcallosal motor fibres in periventricular leukomalacia. Dev Med Child Neurol. 2011;53:179-86. DOI
- Kleim JA, Jones TA. Principles of experience-dependent neural plasticity. J Speech Lang Hear Res. 2008;51:S225-39. DOI
- Lazari A, Lipp I. Can MRI measure myelin? Systematic review and meta-analysis. Neuroimage. 2021;230:117744. DOI
- de Faria O Jr, et al. Activity-dependent CNS myelination throughout life. J Neurochem. 2019;148:447-61. DOI
執筆者情報
大上祐司(おおうえ ゆうじ)
NEUROスタジオ大阪 施設長 / 理学療法士

主な研究業績
2019年 ボバースジャーナル42巻第2号 論文発表(2編)
『Sit to Walkの効率的な運動遂行を獲得するために臨床推論を行い改善が得られた1症例』
『被殻出血後7ヶ月経過し、屋外歩行自立に向けて挑戦した1症例』
研修会受講歴
2018年 イギリス海外研修参加(脳卒中治療技術)
2019年 イギリス海外研修参加(最新エビデンス習得)
継続的な国内外研修会参加によるスキルアップ
