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脳幹出血・脳幹梗塞の予後とリハビリ|症状・後遺症から退院・職場復帰までの流れ

💡脳幹出血・脳幹梗塞の予後と回復のロードマップ

脳幹(中脳・橋・延髄)の損傷は、発症時の意識レベルが生命予後を大きく左右し、意識があれば生存率は97%まで高まります。特有の後遺症として失調や複視、球麻痺が生じますが、適切なリハビリにより歩行自立度は約80%、嚥下機能は約95%が回復する可能性があります。退院後は、転倒予防や厳格な血圧管理を行いつつ、就労支援等の活用で社会復帰を目指すことが可能です。

この記事の症状・課題へ専門的にアプローチ

NEUROスタジオは、科学的根拠(エビデンス)に基づいたリハビリ施設です。
症状改善の可能性について、お近くのスタジオへご相談ください。

脳幹(中脳・橋・延髄)は生命維持と意識の中枢であり、損傷すると「生命の危険」や「意識障害の固定化」など、最悪の事態が生じる可能性もあり得ます。

本記事では、医学論文や統計データに基づいた「生存率」「機能予後」の数値と、急性期から生活期にかけて直面する具体的な課題・解決策を時系列で解説します。

【急性期】生存率と身体機能の管理(発症〜4週)

脳の医療イラストレーションで、左側は矢状面(横からの断面)、右側は水平断面(上からの輪切り)を示しています。両方の図で、脳の深部にある脳幹が温かみのあるオレンジ色で強調表示され、矢印と「脳幹」という日本語のラベルで明確に指し示されています。患者や家族向けの教育用資料として、脳幹の位置と重要性を分かりやすく伝えています。

発症直後は生命維持が最優先されます。この時期の最大の焦点は「生存率」と「意識・呼吸の管理」です。

統計データに基づく生存率と予後

脳幹出血(橋出血)

近年の研究(Behrouz 2018)によると、急性期死亡率は平均48.1%です。予後を左右する最大因子は「来院時の意識レベル(GCS)」であり、発症時に昏睡状態でなければ生存率は上昇します。

出血量が少なく意識が保たれているグループの30日死亡率はわずか2.7%の一方、意識障害が重度で出血量が多いグループでは、死亡率は100%に達するという厳しい報告もあります(Huang et al. 2017; Behrouz 2018

脳幹梗塞

脳幹梗塞の予後は、発症時の「意識レベル」と「血管の詰まり方(特に脳底動脈の状態)」によって大きく異なります。

発症時に意識がある場合(軽症〜中等症):発症時に呼びかけに対する反応がある場合、生命予後は比較的良好です。Kolukısaら(2015)の調査によると、脳幹梗塞全体の1年死亡率は約11.7%と報告されています。 ただし、発症から2週間以内は症状が進行したり再発したりするリスク(同研究では9.8%)があるため、慎重な管理が必要です。

発症時に昏睡状態の場合(重症):Ritvonenら(2021)の研究によると、搬送時に昏睡状態であっても、カテーテル治療によって閉塞した血管の再開通に成功した場合、約20%(5人に1人)の患者が機能的な自立(身の回りのことができる状態)まで回復することが示されました。

一方、同研究における昏睡状態の患者の3ヶ月死亡率は46.2%であり、依然として生命の危険が高い状態であることに変わりはありません。しかし、「重度の意識障害=絶望」ではなく、適切な初期治療が社会復帰への道を拓く可能性があることが、最新のデータで裏付けられています。

意識障害と「閉じ込め症候群」

閉じ込め症候群(Locked-in Syndrome)とは

非常に稀(脳卒中全体の1%未満)ですが、脳幹の「橋(きょう)の腹側」という部分だけが大きく損傷した場合に起こる特殊な状態です。 意識は完全にあり、耳も聞こえ、こちらの言うことは全て理解できているのに、手足も口も一切動かせないため、植物状態と間違われやすいのが特徴です。

家族ができるチェック方法

この症状の方の多くは、唯一「眼球を縦(上)に動かすこと」と「まばたき」だけは可能です。 もし反応がないように見えても、「聞こえていたら、目をパチっとしてみて」「上を見て」と具体的に声をかけてみてください。微細な目の動きで返事をしてくれる可能性があります。

気管切開と胃ろう(PEG)

ベッドで療養する高齢男性の医療イラスト。喉元には気管切開カニューレ、腹部には胃ろう(PEG)が造設されている様子が衣服を少しめくって描かれています。患者の表情は穏やかで、介護者またはセラピストの手が優しく肩に添えられており、適切な医療管理とケアを受けている安心感のある描写です。鼻のチューブがなくなり、顔周りがすっきりしていることも示されています。

発症から1〜2週間が経過し、容体が落ち着いてくると、医師から「呼吸」と「栄養」の管理方法を変更する提案がなされることがあります。これは「悪化」ではなく、本格的なリハビリテーションに向けた「準備」です。

気管切開

痰の喀出困難による誤嚥性肺炎を防ぐことが主目的です。意識と嚥下機能が改善すれば、スピーチカニューレ(声が出せる器具)への変更や、カニューレ自体の抜去が検討されます。

胃ろう(PEG)

経鼻胃管が4週間以上必要な場合、管からの感染予防と苦痛軽減のために推奨されます(Faigle et al. 2015)。鼻のチューブがなくなることでリハビリに集中しやすくなったり、飲み込み(嚥下)の練習を行いやすくなるメリットがあります。

抜去の可能性: 「一度作ったら一生そのまま」ではありません。脳幹梗塞(特にワレンベルグ症候群など)による嚥下障害は、初期は重度でも回復する傾向があります(Kim et al. 2018)。リハビリによって経口摂取が可能になれば、胃ろうは抜去可能です。

【回復期】脳幹特有の機能障害と日常生活への影響(1ヶ月〜6ヶ月)

脳幹損傷後のリハビリテーションの様子を患者自身の一人称視点で捉えた写真。手首に青い重錘バンドを装着した患者の手が、セラピストのサポートを受けながら色付きの積み木を積もうとしている。しかし、複視(物が二重に見える症状)により、手元や積み木、周囲の景色がすべて二重にブレて見えており、正確な動作が困難な状態が視覚的に表現されている。

急性期を脱すると、リハビリ専門病院などでの機能回復練習が本格化します。
脳幹損傷は「麻痺(動かない)」以上に、
「失調(揺れる)」
「複視(二重に見える)」
「球麻痺(飲み込めない)」が生活自立の阻害要因となります。

運動失調(アタキシア)〜運動制御の障害〜

症状の特徴

筋力低下(麻痺)とは異なり、手足の力はある程度保たれているものの、運動の「方向」や「力の加減」の微細な調節が困難になる状態です。

動作が円滑さを欠き、目標に対して手が震えたり(企図振戦)、立位・歩行時にバランスを崩しやすくなったりします。特に「体幹失調」を合併すると、座位姿勢の保持すら困難となり、トイレ動作や車椅子への移乗動作における転倒リスクが著しく高まります。

失調に対するリハビリテーションのアプローチ

失調症状に対するリハビリの要点は、低下している「固有受容感覚(手足の位置や動きを感じる能力)」の入力を強化し、より効率的な運動を学習することにあります。

  • 重錘(おもり)の活用: 手首や足首に重錘バンド(1kg〜2kg程度)を装着して動作を行います。関節への圧迫刺激と筋への負荷により、脳へ送られる感覚情報が増幅され、運動の軌道修正が行いやすくなります。
  • 体幹の安定(スタビリティ): 四肢を正確に動かすためには、土台となる体幹が安定している必要があります。インナーマッスルと呼ばれる腹部深層筋群の活動を高め、身体の中心部を強固に固定する身体操作を反復練習します。

回復の見込み

失調症状は、運動麻痺に比べて回復に時間を要する傾向があります。

しかし、発症から長期間経過しても機能改善の可能性が残されているのが特徴です。実際に、発症から13ヶ月後(Freund & Stetts 2010)や、2年後(Jang & Kwon 2016)から集中的なリハビリを開始し、歩行能力を獲得した症例が報告されています。 短期間で改善が見られない場合でも、数千回単位の集中的な反復練習(運動学習)を継続することが、機能回復への道筋となります。

複視・眼球運動障害

症状の特徴と日常生活への影響

脳幹卒中の患者のおよそ3人に1人(約30〜40%)に現れます。眼球を動かす筋肉(外眼筋)麻痺により「物が二重に見える(複視)」、眼振により「めまい」が生じます。これにより距離感がつかめず、コップが取れない、階段が降りられないといった問題が生じます。

研究によると、複視がある脳損傷患者は、ない患者に比べて「お風呂」「着替え」「トイレ動作」の機能的自立度(FIMスコア)が有意に低いことが示されています(Watabe 2021)。

自然回復

多くの研究において、複視や眼球運動障害は発症直後の1〜3ヶ月以内に最も回復しやすいとされています。

対応

  • 眼帯(遮蔽): 片目を遮蔽することで複視を消失させ、活動しやすくします。
  • プリズム眼鏡: 光を屈折させ、ズレた像を補正します。
  • 代償動作: 眼球が動かない方向へ首を回して視界を確保する習慣をつけます。

嚥下障害・構音障害(球麻痺)

延髄の損傷により、嚥下反射の遅延や声帯麻痺が生じ、これは球麻痺症状と呼ばれます。呂律が回らない、唾液でむせるといった症状に加え、誤嚥性肺炎のリスクが常につきまといます。

リハビリテーションと予後

重度の嚥下障害を呈するワレンベルグ症候群(延髄外側梗塞)の患者を追跡した研究(Kim et al. 2018)では、初期に経管栄養が必要であった場合でも、適切な食形態の調整(とろみ等)や代償手技(完全側臥位嚥下や頭部回旋)の習得により、最終的に大多数が経口摂取へ移行できたと報告されています。

諦めていたその症状、
まだ「変化」の余地があります。

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【退院判定】自宅生活の目安と機能のレベル

退院後の生活レベルと自立の目安を5段階の階段で示した図です。下から順に、レベル5(青)は「医療的ケア(Medical Care)」で、点滴や吸引器のアイコン。レベル4(水色)は「排泄介助(Toileting Assistance)」で、オムツやトイレ介助のアイコン。レベル3(緑)は「介助があれば生活(With Assistance)」で、入浴介助やスロープ、介護タクシーのアイコン。レベル2(黄色)は「日中お留守番(Daytime Alone)」で、時計、キッチンワゴン、電子レンジのアイコン。一番上のレベル1(オレンジ)は「一人暮らし(Living Alone)」で、鍵、調理、携帯電話のアイコンが描かれています。右側には大きな上向きの矢印があり、「自立度向上・復帰への道」と書かれており、リハビリテーションによって上の段階を目指していくことを視覚的に表現しています。

退院後の生活を具体的にイメージすることは簡単ではありません。 以下に、身体の状態に応じた「自宅生活の目安」を5つの段階に整理しました。

「我が家ならここまでできる」「ここは介護保険などのサービスを使いたい」といった希望を整理し、担当者(療法士やソーシャルワーカー)と早めに共有することで、退院調整や必要な練習がスムーズに進むようになります。

1. 一人暮らし(独居)が可能な状態

身の回りの動作が自立しており、かつ「火の元の管理」「服薬管理」「緊急時の連絡」などの判断能力が正常である状態です。

脳幹損傷は、一般的な脳卒中と比較して認知機能(判断力)が保たれやすいため、身体のふらつきさえコントロールできれば、この段階での復帰も十分に考えられます。

2. 日中のお留守番が可能な状態(家族が就労)

家族が仕事に出ている間、一人で安全に過ごせる状態です。以下の3点がポイントになります。

  • トイレ: 一人で安全に移動し、排泄を済ませられる。
  • 水分補給: 手の届く場所に飲み物があり、自分で飲める。
  • 昼食: 用意してある食事を食べる、または電子レンジで温めることができる。

【生活の工夫】
杖をついて歩く場合、お皿やコップを持って運ぶことが難しくなります。「キッチンワゴン」を使って物を運ぶ練習をしたり、動線を確保したりすることで、自立度は大きく向上します。

3. 介助があれば生活できる状態

トイレへの移動や乗り移りなどに、人の手助けが必要な状態です。 この段階で自宅へ戻る場合、ご家族(キーパーソン)の体力的な負担を考慮し、介護保険サービスをうまく組み合わせることが重要です。

  • 入浴: 自宅での介助が難しい場合、デイサービスや訪問入浴を利用する。
  • 住宅改修: 手すりの設置や段差解消を行い、介助量を減らす。

4. 排泄介助(オムツ交換等)が必要な状態

トイレでの排泄が難しく、オムツ交換などの介助が必要な状態です。 ご家族だけで抱え込まず、ヘルパーの導入などを検討する必要があります。

【退院先に関わる排泄関連動作】

排泄動作が自立しているかどうかは、自宅退院が可能か施設入所になるかを分ける重要な要素であるという報告があります(Furuta et al. 2022)。 しかし、これは「排泄が自立していないと帰れない」という意味ではありません。「排泄介助が必要なことを前提に、どのようなサポート体制(人・サービス)を組むか」を退院前から入念に計画する必要があります。

5. 医療的ケアが必要な状態

痰の吸引、経管栄養(胃ろう)、点滴などの医療処置が頻繁に必要な状態です。 訪問看護や訪問診療の体制を整えることはもちろんですが、継続のためには「ご家族の睡眠時間の確保」が何より大切です。

夜間のケアが頻繁な場合は、ご家族が休息を取れるよう、ショートステイやレスパイト入院(介護者の休息のための入院)を定期的に利用する計画を立てておきましょう。

【食事】「常食」に戻れる確率とプロセスの現実

退院後の生活で、家族の負担と直結するのが「食事の準備」です。 脳幹損傷、特に延髄の損傷では、最初は重度の嚥下障害(飲み込みにくさ)が出ることがありますが、一生そのままではありません。

どれくらいの人が戻れる?(データ)

脳卒中全体の嚥下障害に関する最新の調査(Jin et al. 2025)では、発症直後は多くの人に障害が出ますが、発症から6ヶ月後には約95%の患者さんが嚥下機能を回復しているという報告があります。

また、重度の嚥下障害(最初は鼻からチューブ栄養が必要だったレベル)を持つ脳幹損傷患者を追跡した研究(Kim et al. 2018)でも、リハビリを続けることで、最終的には大多数の方がチューブを抜いて「口から食べる生活」を取り戻しています。

「常食」と「それ以外」の違い

退院直後は、まだ普通の食事が難しい場合、「食形態(食事の固さやとろみ)」の調整が必要です。

主な食形態の種類

  1. 常食: 家族と同じ普通の食事。
  2. 軟菜食・ソフト食: 歯ぐきで潰せる固さ(長時間煮込んだ野菜やハンバーグなど)。
  3. ミキサー・ペースト食: 噛む必要がなく、ゴックンと飲み込むだけの状態。
  4. とろみ(最重要): 脳幹損傷では、サラサラした「水やお茶」が一番気管に入りやすいため、飲み物に「とろみ剤」を入れてポタージュ状にします。

無理せず「便利なもの」を活用

ご本人の分だけ別メニューを作ったり、ミキサーにかけたりするのは、毎食となると想像以上の重労働です。 現在は、ドラッグストアや通販で「美味しくて栄養価の高い市販の介護食(レトルトや冷凍)」が手に入りやすくなっています。昔と違って味も格段に良くなっている為、「手作りしなきゃ」と必要以上に気負うことなく、便利なものを積極的に活用しながら食事を楽しむことが重要だと考えます。

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【生活期】社会復帰への道:屋外歩行・運転・仕事(退院後〜)

リハビリ病院を退院した後、ご本人と家族が直面するのは「家でどう過ごすか」「仕事に戻れるか」という現実的な課題です。 脳幹損傷は、身体的な麻痺が軽度でも「見えない障害」が社会復帰の壁となることがあります。ここでは移動、運転、就労の3点について、データと対策を解説します。

屋外歩行と公共交通機関

歩行自立の可能性

「脳幹をやられたら車椅子生活になるのでは?」という不安に対し、希望となるデータがあります。 テント下(脳幹・小脳)の脳卒中患者72名を対象とした研究(Gialanella et al. 2007)によると、リハビリ開始時はわずか1.4%だった歩行自立度が、退院時には80.5%まで改善したと報告されています。

※データの解釈に関する注意
この研究対象には、脳幹単独の患者だけでなく小脳出血などの患者も含まれています(脳幹を含む患者は約35%)。しかし、同研究では「損傷部位(脳幹か小脳か)」よりも「入院時の重症度」が歩行予後を決定づけると結論づけています。つまり、発症時の全身状態が壊滅的でなければ、脳幹損傷であっても高い確率で歩行獲得が期待できます。

公共交通機関のハードルの高さ

歩行が自立しても、バスや電車の利用には「急な揺れ」や「人混み」に対応する高度なバランス能力が必要です。脳幹損傷特有のふらつき(失調)が残存している場合は、転倒リスクを避けるため、まずは「座れるルート」の確保から始める必要があります。駅構内のエレベーターやエスカレーターの位置、優先席車両の停車位置などを事前に調べたり、下見を兼ねた練習をお勧めします。

自動車運転の再開と法的ルール

地方在住の方や、営業職の方にとって運転再開は死活問題ですが、ここは最も慎重な判断が求められます。

法的根拠:自己判断は「無免許運転」のリスク

脳卒中(脳幹出血・梗塞を含む)を発症した場合、道路交通法第66条に基づき「正常な運転ができないおそれがある状態」での運転は禁じられています。 医師や公安委員会の判断を仰がずに運転を再開し、事故を起こした場合、自動車保険が適用されないばかりか、危険運転致死傷罪などに問われる可能性があります。

再開までの正規フロー

以下の手順を踏む必要があります。

①医療機関での評価: 主治医に相談し、院内での「ドライビングシミュレーター」や運転技能に関わる「注意機能検査」を受け、診断書作成が可能かを確認します。

②運転免許センターでの適性相談: 医師の診断書を持参し、警察署や免許センターの「安全運転相談窓口」で面談・適性検査を受けます。

③公安委員会の判断: 最終的に公安委員会から運転継続の可否(または条件付き許可)が通知されます。

脳幹損傷特有のハードル

脳幹損傷の方の場合、運動機能はクリアできても、以下の症状により不許可となるケースがあります。

  • 複視(二重に見える): 距離感がつかめないため、プリズム眼鏡等で矯正できない場合は運転不可能です。
  • 易疲労性: 「30分運転すると極度に疲れて注意力が散漫になる」というケースが多く、実車評価での確認が推奨されます。

職場復帰の現実

復職率の目安

一般的な脳卒中全体のデータでは、発症1年後の復職率は約53%(Saar et al. 2023)とされていますが、適切な支援があれば確率は上がります。 日本の労災病院グループによる研究(Umemura et al. 2023)では、就労支援プログラムを受けた患者において、約73%が復職に成功したというデータがあります。脳幹損傷は知的機能が保たれやすいため、身体的条件さえ整えばデスクワーク等への復帰は十分に現実的です。

復職を阻む「見えない障害」

「麻痺は軽いのに、なぜか働けない」。その最大の原因として「脳卒中後疲労(Post-Stroke Fatigue)」が挙げられます(Rutkowski et al. 2021)。 脳幹(網様体)の損傷により覚醒レベルを維持するエネルギーが枯渇しやすく、少しの作業で激しい疲労感に襲われる症状です。これは「怠け」ではなく生理学的な後遺症です。

対策:環境調整

  • 時短勤務: 最初は「午前中のみ」など時間を区切る。
  • マルチタスクの回避: 「電話しながら入力」などの並行作業を避け、一つずつ処理できる業務環境を整える。

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【生活の質】家族が知っておくべき「見えない症状」と再発予防

退院後の生活において、ご本人と家族の間で摩擦を生む原因となりやすいのが、外見からは分からない「感覚・感情の障害」と「再発への不安」です。

感情失禁(情動調節障害)

「性格が変わってしまった」という誤解

悲しくもないのに急に涙が出たり、些細なことで激しく怒り出したりする症状(Pseudo-Bulbar Affect: PBA)です。脳幹(特に橋)や基底核の損傷により、感情のブレーキ機能が障害されることで起こります。

研究(Tang et al. 2009)によると、この症状は脳卒中後のうつ状態とは異なり、認知機能や論理的思考は保たれていることが多いとされています。 家族は「情緒不安定になった」と戸惑いますが、「脳のブレーキが一時的に緩んでいるだけで、本人の人格や本当の感情が変わったわけではない」と理解することが、良好な関係を保つ鍵となります。

しびれ・疼痛(感覚障害)

目に見えない「痛み」の理解

運動麻痺が回復しても、手足や顔面に「ジンジンするしびれ」や「焼けるような痛み(灼熱痛)」が残ることがあります。 天候や体調によって痛みの強さが変動するため、周囲からは「さっきまで動いていたのに」と誤解を受けやすい症状です。これが「怠け」ではなく病的な神経痛であることを、家族や職場が認識する必要があります。

命を守る再発予防

厳格な血圧管理が生命線

脳幹出血・脳幹梗塞は、一度再発すると呼吸停止などの致命的な事態に直結しやすいため、再発予防が何よりも重要です。 日本脳卒中学会のガイドラインにおいても、再発予防のための血圧管理目標は厳格に設定されています。

  • 降圧目標: 一般的に収縮期血圧130mmHg未満、かつ拡張期血圧80mmHg未満が推奨されます。
  • 生活習慣: 減塩(1日6g未満)、禁煙、適正体重の維持が基本となります。

FAQ(よくある質問)

ご本人とご家族から、現場でよくいただく質問をまとめました。

Q1. 脳幹の病気は遺伝しますか?

基本的には生活習慣病(高血圧や糖尿病)が主因となるため、病気そのものが直接遺伝するわけではありません。しかし、「高血圧になりやすい体質」や「血管の弱さ」は家族間で似る傾向があります。ご兄弟や子供世代の方も、定期的な血圧測定や脳ドックを受けることをお勧めします。

Q2. 「発症から6ヶ月で回復が止まる」と言われました。もう良くならないのでしょうか?

確かに発症から6ヶ月(回復のプラトー)を過ぎると、劇的な回復は見られにくくなります。しかし、「完全に止まる」わけではありません。記事内でも紹介したように、発症から1年以上経過してから歩行能力を獲得した事例も報告されています。回数は必要ですが、脳は学習し続けますので、諦める必要はありません。

Q3. 急に怒ったり泣いたりして、性格が変わったようで辛いです。

それは「感情失禁」という後遺症の可能性があります。脳の感情をコントロールするブレーキの調子が悪くなっている状態であり、認知症や性格の変化ではありません。ご本人もコントロールできずに戸惑っていることが多いので、「脳の症状なんだ」と理解して接してあげることが、お互いのストレス軽減につながります。

Q4. 再発したらどうなりますか?

脳幹は生命維持の中枢であるため、再発した場合は初回よりも重篤な状態(呼吸停止や意識障害)になりやすいのが現実です。だからこそ、「血圧管理」が何よりも重要になります。退院後は家庭血圧を毎日測定し、リスクを徹底的に下げることが、命を守る唯一の方法です。

【まとめ】「生命の危機」を乗り越えた先の希望

脳幹(中脳・橋・延髄)の損傷は、発症直後には「意識障害」や「呼吸停止」といった生命の危機に直面する重篤な疾患です。ご家族が受ける衝撃と不安は計り知れません。

しかし、本記事で紹介した統計データは、決して悲観的な未来だけを示しているわけではありません。

  • 生存率: 発症時に意識があれば、多くのケースで急性期を乗り越えられます。
  • 自立度: 脳幹損傷からの生存者は、認知機能が保たれやすいため、一般的な脳卒中よりも高い確率(約35%)で自立した生活に戻っています。
  • 歩行: テント下病変の患者さんの約80%が、退院時には歩行能力を獲得しています。
  • 食事: 嚥下障害があっても、6ヶ月後には95%の方が機能を回復しています。

「今は管(チューブ)だらけで動けない姿」であっても、それは永遠に続く姿ではありません。適切な時期に、適切なリハビリテーションと環境調整を行うことで、再び「自分らしい生活」を取り戻す道筋は確実に存在します。

この記事が、不安の中にあるご本人とご家族にとって、次の一歩を踏み出すための羅針盤となれば幸いです。

執筆者情報

三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士


主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年    論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』 
2022年.   書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法
p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス

その他経歴
2016年  ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任
2025年 株式会社i.L入職 NEUROスタジオ千葉の立ち上げ

現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動
千葉ハンドリングセミナー共同代表

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参考文献

  • Prognostic factors in pontine haemorrhage: A systematic review (橋出血の予後因子:システマティックレビュー)
    Behrouz et al. (2018)
    https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/2396987317752729
  • Development and Validation of a Grading Scale for Primary Pontine Hemorrhage (橋出血の重症度スケール:出血量と意識レベルの影響)
    Huang et al. (2017)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28195221/
  • One-year follow-up in patients with brainstem infarction due to large-artery atherothrombosis (大動脈アテローム硬化性脳幹梗塞の1年後予後)
    Kolukısa et al. (2015)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26316773/
  • Comatose With Basilar Artery Occlusion: Still Odds of Favorable Outcome With Recanalization Therapy(脳底動脈閉塞による昏睡状態:再疎通療法による良好な転帰の可能性は依然として存在する)
    Ritvonen et al. (2021)
  • Novel score predicting gastrostomy tube placement in intracerebral hemorrhage (脳出血後の胃ろう造設を予測する新規スコア)
    Faigle et al. (2015)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25468881/
  • Clinical course and outcome in patients with severe dysphagia after lateral medullary syndrome (延髄外側梗塞後の重度嚥下障害の臨床経過と転帰)
    Kim et al. (2018)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29511384/
  • Use of trunk stabilization and locomotor training in an adult with cerebellar ataxia (小脳性運動失調に対する体幹安定化と歩行訓練の効果)
    Freund et al. (2010)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20649489/
  • Delayed regaining of gait ability in a patient with brain injury (脳損傷後の遅発的な歩行能力の回復:症例報告)
    Jang et al. (2016)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27661035/
  • Association between external ophthalmoplegia with diplopia due to brain injury and FIM motor items (脳損傷による複視・外眼筋麻痺とFIM運動項目の関連)
    Watabe et al. (2021)
    https://doi.org/10.11336/jjcrs.12.58
  • Functional Independence Measure subtypes among inpatients with subacute stroke (亜急性期脳卒中患者のFIMサブタイプ分類と退院先)
    Furuta et al. (2022)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/prm/7/0/7_20220021/_article
  • Predictors of recovery from dysphagia after stroke: A systematic review and meta-analysis (脳卒中後の嚥下障害回復の予測因子:メタ分析)
    Jin et al. (2025)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40241863/
  • Walking and mobility before and after rehabilitation in patients with infratentorial stroke (テント下脳卒中患者のリハビリテーション前後の歩行と移動能力)
    Gialanella et al. (2007)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17953279/
  • Returning to work after stroke: Associations with cognitive performance, motivation, perceived working ability and barriers (脳卒中後の職場復帰:認知機能やモチベーションとの関連)
    Saar et al. (2023)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36622215/
  • Rate of return to work in patients with stroke under the health and employment support program of Rosai hospitals in Japan (日本の労災病院における脳卒中患者の復職率)
    Umemura et al. (2023)
    https://www.nature.com/articles/s41598-023-43162-2
  • Post-stroke fatigue: A factor associated with inability to return to work in patients <60 years (60歳未満の脳卒中患者における復職阻害因子としての疲労)
    Rutkowski et al. (2021)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34347804/
  • Emotional incontinence and executive function in ischemic stroke (虚血性脳卒中における感情失禁と実行機能)
    Tang et al. (2009)
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19128529/
  • 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕
    日本脳卒中学会 (2025)
    https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf