はじめに:冬のリハビリが「停滞」しやすいのはなぜか

「夏場よりもリハビリの効果が感じにくい」 「朝起きると、麻痺側の手足が鉛のように重く、ガチガチに固まっている」
もし今、あなたがそのような症状を感じているとしても、決して焦る必要はありません。また、ご自身のリハビリ不足を責める必要もありません。 実は、脳卒中後の身体にとって、「冬」は単なる季節の変化以上に、物理的・生理学的なハンディキャップを背負う時期だからです。
多くの当事者の方が、寒さを理由に活動量を落とし、春が来るのを待とうとします。しかし、臨床経験15年の理学療法士として、私はあえて厳しいことをお伝えしなければなりません。 「冬の間に何もしないこと」のリスクは、皆さんが想像しているよりも遥かに大きいのです。
この記事では、最新の医学論文に基づき、なぜ冬に麻痺側が悪化するのかという「不都合な真実」と、それを乗り越えて2026年を飛躍の年にするための「具体的な戦略」**を解説します。
第1章:麻痺側が「氷のように冷える」医学的理由
「冷え性」という言葉で片付けてはいけません。脳卒中後の冷えは、血管運動のコントロール不全という**「神経系のエラー」**です。

1. 脳からの指令エラー(自律神経の暴走)
私たちの体温調節は、脳の「島皮質」や「脳幹」といった部位が司令塔となって行われています。しかし、脳卒中によってこのシステム(中枢自律神経ネットワーク)がダメージを受けると、体温調節の命令がうまく末梢まで届きません。
脳卒中後の冷感と交感神経調節に関する最新のレビュー (2025) によると、損傷された脳の影響で麻痺側の交感神経が暴走(過剰興奮)し、血管を必要以上に強く締め付けてしまうことが分かっています。 その結果、健側に比べて麻痺側の皮膚温が最大6℃〜10℃も低下するケースが報告されています 。これは「冷えている」というより、「脳が誤って血流を遮断している」状態に近いのです。
2. 燃料が届かず、エンジンも劣化している(物理的要因)
さらに、物理的な問題も重なります。 筋肉は人体最大の「熱産生器官(発熱装置)」ですが、麻痺側の足ではこの機能が著しく低下しています。
- 燃料不足: 慢性期脳卒中患者における下肢血流の片側性障害 (2004) を示した研究では、麻痺側のふくらはぎの安静時血流量が、健側に比べて約32%も低いことが証明されています 。
- エンジン劣化: さらに脳卒中患者における片麻痺性筋萎縮と筋内脂肪の増加 (2002) に関する研究では、麻痺側の筋肉が萎縮するだけでなく、霜降り状に脂肪へ置き換わり、熱を作る能力そのものが低下していることが示されています 。
血が巡らず、熱も作れない。この「ガス欠状態」の足が冬の冷気にさらされれば、ひとたび冷えるとなかなか温まらないのは、物理的に当然の現象なのです。
第2章:なぜ「寒さ」で手足が勝手に固まるのか?

「寒いと肩がすくむ」のは誰にでも起こりますが、脳卒中当事者の場合はレベルが違います。これには「熱性筋緊張(Thermal muscle tone)」というメカニズムが関わっています。
1. 寒さが強制的に「強張りスイッチ」を入れる
通常、筋肉の緊張は脳からの指令でコントロールされています。しかし、寒冷刺激が脳卒中後の痙縮に与える影響 (2017) を調べた研究によると、皮膚が寒さを感じると、中枢性の防御反応として「熱性筋緊張」が生じ、全体的な筋肉のトーン(緊張)が増大することが分かっています 。
この研究では、寒冷刺激によって筋肉の受動的な硬さ(非反射的要素)が有意に増加することが示されました 。つまり、冬の寒さの中にいるだけで、あなたの意思とは無関係に、体は芯から固まってしまうのです。
2. 多くの患者様が感じる「寒さの壁」
これは理論だけの話ではありません。実際に、ボツリヌス療法を受けている脳卒中および多発性硬化症患者における痙縮の影響因子 (2015) を調査した研究では、脳卒中患者の69%が「屋外の寒さ(Outdoor cold)」によって痙縮が悪化すると回答しています 。 「冬だから調子が悪い」というのは、多くの当事者の方が直面している、医学的根拠のある事実なのです。
諦めていたその症状、
まだ「変化」の余地があります。
リハビリの効果が停滞していると感じていませんか?
NEUROスタジオでは、脳科学に基づいたアプローチで
あなたの眠っている改善の可能性を引き出します。
第3章:「温める」だけでは不十分な理由と、その対策

ここまで読めば、単にカイロを貼るだけの対策がいかに不十分か、お分かりいただけると思います。
1. 受動的加温(Passive Heating)の限界
もちろん、温めることは大切です。しかし、外から温めるだけでは、先述した「自律神経の暴走」や「筋肉の脂肪化」といった根本原因は解決しません。外に出れば、またすぐに脳は防御反応を示し、体を固めてしまいます。
2. 【警告】感覚障害と低温やけど
また、私たち専門家が最も懸念するのは「低温やけど」のリスクです。麻痺側で感覚が鈍くなっている場合、「熱い」という危険信号を脳がキャッチできず、気づかないうちに深部組織まで損傷する事故が後を絶ちません。 直接肌に触れる熱源よりも、シルクやウールなどの「体温を逃がさない素材(輻射熱の活用)」を推奨します。
3. 解は「能動的熱産生(Active Thermogenesis)」にある
冬の強張りを根本から打破する唯一の方法は、「自分の筋肉を使って熱を作る」ことです。 リハビリテーションを通じて、萎縮した筋肉を正しく収縮させ、深部体温を内側から上昇させる。このプロセスを経て初めて、脳は「もう防御反応(強張り)を出さなくても安全だ」と学習し、過剰な緊張を解いてくれます。
第4章:2026年を「停滞」ではなく「飛躍」の年に

冬の3ヶ月間、「寒いから」と活動量を落として過ごすと、その間に筋肉の線維化は進み、脳の運動マップは縮小してしまいます。 春になってから慌ててリハビリを再開しても、マイナスからのスタートとなり、本来得られたはずの回復を取り戻すのに多大な時間を要します。
「冬こそ、攻めのリハビリを」
私たちニューロスタジオは、東京・千葉・大阪の3拠点で、この「冬の悪循環」を断ち切るための環境を整えています。
- 東京・大阪スタジオ(施設型): 徹底した空調管理下で寒冷ストレスをゼロにし、最新機器と徒手療法で「脳の再教育」に集中できる環境を提供します。
- 千葉スタジオ(訪問型): 最も寒さを感じる「ご自宅」という環境下で、生活動作を阻害する強張りをその場で評価し、実践的な解決策(環境設定・動作指導)を提示します。
新年は1月5日から始動します
年末年始、体を固めたまま過ごさないでください。 当施設は、2026年1月5日(月)より全拠点で通常営業を開始します。 春にはご家族と笑顔で外出できるよう、私たちが全力でサポートします。
「自分の足は、もっと良くなるはずだ」 そう信じる方は、ぜひ一度、私たちの体験プログラムへお越しください。
【よくある質問】脳卒中と冬のリハビリについて

Q1. なぜ、脳卒中の麻痺側だけが冬に固くなるのですか?
A. 脳の自律神経調節エラーと、寒さによる「熱性筋緊張」が原因です。 脳卒中になると、脳幹や島皮質を含む中枢自律神経ネットワークが損傷を受け、麻痺側の交感神経機能不全を引き起こすことがあります。その結果、麻痺側の皮膚温は健側に比べて著しく低くなり、最大で6℃〜10℃の差が生じることが報告されています。 さらに、寒冷刺激が加わると「熱性筋緊張(Thermal muscle tone)」と呼ばれる現象が発生し、筋肉の反射的・非反射的な硬さ(stiffness)が増大するため、ご自身の意思とは無関係に手足が固まってしまいます。
Q2. 麻痺側をカイロや電気毛布で温めるだけで、痙縮は改善しますか?
A. いいえ、温めるだけでは根本的な改善にはなりません。 外部から温めること(受動的加温)で一時的に緩和することは可能ですが、根本解決には至りません。実際に、脳卒中患者の69%が「屋外の寒さ」を痙縮の悪化要因として挙げており、環境温度の変化に身体が敏感に反応してしまうことが分かっています。 寒さによる筋緊張の増加は中枢性(脳・脊髄レベル)のメカニズムも関与しているため、単なる保温だけでなく、神経系へのアプローチが必要です。
Q3. 寒い冬の間、リハビリを休むとどうなりますか?
A. 筋肉の「脂肪化」や「萎縮」が進行し、機能低下を招くリスクがあります。 麻痺側の筋肉は、健側に比べて筋肉量が減少するだけでなく、筋肉の中に脂肪が入り込む「筋内脂肪(Intramuscular fat)」の増加が進行していることが研究で明らかになっています。 また、麻痺側の下肢血流量は健側に比べて約32%低下しているというデータもあります。冬の間に活動量を落とすと、これらの物理的な変化(廃用症候群)が加速する恐れがあります。
Q4. 麻痺側の冷え対策で、特に気をつけるべきことはありますか?
A. 温度感覚の変化による「低温やけど」に最大の注意が必要です。 脳卒中後は、麻痺側の温度に対する感受性が変化(低下)することがあります。麻痺側の皮膚温は血流低下により元々低くなっていますが、感覚が鈍くなっている状態でカイロなどの熱源を長時間当て続けると、熱さを感じないまま皮膚損傷(やけど)に至るリスクがあります。直接的な熱源ではなく、保温性の高い衣類などで体温を逃がさない工夫を推奨します。
Q5. 発症から数年経過していますが、冬の強張りは改善しますか?
A. はい、慢性期であっても改善の可能性は十分にあります。 本記事で紹介した「筋肉の脂肪化」や「血流低下」に関する研究は、発症から6ヶ月以上経過した慢性期の患者様を対象としたものです。また、寒冷刺激が痙縮に与える影響を調べた研究でも、発症から平均約5年以上(68ヶ月)経過した患者様が対象となっています。発症からの期間に関わらず、医学的根拠に基づいた介入を行う価値は十分にあります。
参考文献
- Yu M, Xu P, Fan H, Fei Y. Post-stroke hemiplegic limb cold sensation and sympathetic nervous regulation: A review. Journal of International Medical Research. 2025;53(11). doi:10.1177/03000605251395450 (脳卒中後の麻痺側における冷感と交感神経調節に関するシステマティックレビュー)
- Li S, Shin H, Zhou P, Li X. Different Effects of Cold Stimulation on Reflex and Non-Reflex Components of Poststroke Spastic Hypertonia. Frontiers in Neurology. 2017;8:169. doi:10.3389/fneur.2017.00169 (寒冷刺激が脳卒中後の痙縮および非反射的要素に与える影響)
- Cheung J, Rancourt A, Di Poce S, et al. Patient-Identified Factors That Influence Spasticity in People with Stroke and Multiple Sclerosis Receiving Botulinum Toxin Injection Treatments. Physiotherapy Canada. 2015;67(2):157-166. doi:10.3138/ptc.2014-07 (脳卒中および多発性硬化症患者が認識する痙縮の悪化因子に関する調査)
- Ivey FM, Gardner AW, Dobrovolny CL, Macko RF. Unilateral Impairment of Leg Blood Flow in Chronic Stroke Patients. Cerebrovascular Diseases. 2004;18:283-289. doi:10.1159/000080353 (慢性期脳卒中患者における麻痺側下肢血流の片側性障害)
- Ryan AS, Dobrovolny CL, Smith GV, Silver KH, Macko RF. Hemiparetic Muscle Atrophy and Increased Intramuscular Fat in Stroke Patients. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2002;83(12):1703-1707. doi:10.1053/apmr.2002.36399 (脳卒中患者における片麻痺性筋萎縮と筋内脂肪の増加)
執筆者情報
三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士
主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年 論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』
2022年. 書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法
p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス
その他経歴
2016年 ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任
2025年 株式会社i.L入職 NEUROスタジオ千葉の立ち上げ
現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動
千葉ハンドリングセミナー共同代表
