NEUROスタジオ
メールの方はこちら
お問い合わせ

歩行が安定しないのは「いい足」で頑張りすぎているから?麻痺側のお尻の筋肉を強制的に目覚めさせる「逃げ場なし」の3ステップ

毎日リハビリを頑張っているのに、なぜか麻痺側の足が細いまま。 歩くたびに膝がカクンと内側に入る(内股/Knee-in)、あるいは膝がピーンと伸びきってしまう(反張膝/Back-knee)……。

もしあなたがこのような悩みをお持ちなら、それはリハビリの「回数」が足りないからではありません。 もしかすると、あなたの脳が「より楽に動ける所作(代償動作)」を学習してしまっている可能性があります。

脳は非常にしたたかで効率を重視する器官です。麻痺をして動きにくい筋肉(お尻)を使うのを諦め、働きやすい「いい方の足(非麻痺側)」や「太ももの前側」を使って、なんとか身体を運ぼうとします。 これをリハビリテーション用語で【代償動作】と呼びます。

この「無意識の代償」を続けている限り、たくさんの距離を歩いても、スクワットを多くこなしても、本来支えとなるべき麻痺側のお尻の筋肉にはスイッチが入らないままです。

そこで今回は、脳卒中片麻痺の当事者様向けに「物理的に誤魔化しが効きにくい」自主トレメニューを3つ厳選しました。 これは実際に当施設を利用者様にもお伝えしているものでもあり、これを実践すれば、あなたの脳は自然と「麻痺側のお尻の筋肉」を使う感覚を思い出していくはずです。

NEUROスタジオで
変化を体験しませんか

脳卒中後遺症に強い専門性で
あなたの「できる」を増やします。

NEUROの自費リハビリの詳細 >

「お尻の筋肉」が眠ると、なぜ膝に負担がかかるのか

多くの当事者の方が「膝がグラグラするから、膝周りの筋肉を鍛えたい」と仰います。しかし、多くの場合、根本的な原因は「膝」ではなく「股関節(お尻)」がうまく働いていないことにあります。

お尻の大きな筋肉(大殿筋・中殿筋)は、本来、着地の衝撃を受け止め、骨盤を安定させる「クッション」の役割を担っています。しかし、この筋肉が眠ったままになってしまうと、その衝撃や負担はすべて「膝」にかかります。

  • お尻が支えないから、膝をロックして棒のようにして支える(反張膝)
  • お尻が支えないから、膝を内側に倒して靭帯に頼って支える(内股)

これが、不安定な歩行の正体です。 これを改善するには、単に筋トレをするのではなく、以下の3つの手順を踏むことが科学的にも推奨されています。

  1. 緩める(可動域改善): 硬いままでは筋肉は収縮しません。
  2. 覚える(運動学習): 正しい「股関節の使い方」を脳に入力します。
  3. 鍛える(筋力強化): ここで初めて負荷をかけます。

このプロセスを無視して、いきなりスクワットなどの高負荷トレーニングを行うことは、身体を守ろうとする「代償動作」をさらに強めてしまう可能性があります。

実際、研究においても以下のことが分かっています。

① 股関節の柔軟性はバランスに直結する

Effect of Hip Joint Mobilization on Hip Mobility, Balance and Gait With Stroke Patients
この研究では、脳卒中患者に対して股関節の柔軟性を高める介入を行った結果、可動域だけでなく、バランス能力(TUG)や歩行速度も有意に向上したことが報告されています 。つまり、まず「緩める」ことがスタートラインです。

② 立ち上がりの鍵は「お辞儀」にある

Whole-Body Movements During Rising to Standing from Sitting
立ち上がり動作のバイオメカニクス研究において、動作の初期段階である「体幹の前傾(屈曲相)」が、スムーズな立ち上がりに不可欠であることが示されています 。足の力を使う前に、「重心を前に運ぶ技術」が必要かもしれません。

③ 足の位置を変えるだけで、脳への入力が変わる

The effect of foot position and chair height on the asymmetry of vertical forces during sit-to-stand
これが今回紹介するトレーニングの核心です。麻痺側の足を一足分後ろに引く(非対称な足の位置にする)だけで、麻痺側への荷重が強制的に増え、左右の非対称性が改善することが実証されています 。これは「意識して体重を乗せる」のではなく、「物理的な環境設定」によって脳に荷重感覚を教えるアプローチです。

次章から、このエビデンスに基づいた「逃げ場なしの3ステップ」を具体的に解説します。

訪問・来店、
あなたに合うスタイルは?

スタジオでの集中リハビリと、ご自宅での安心リハビリ。
2つのスタイルをご用意しています。

プラン・料金を確認する >

脳に正しい動きを再教育する「逃げ場なし」の3ステップの実践

ここからは、実際に体を動かしていきます。 大切なのは「回数」ではありません。「自然と正しいフォームで動きやすくなる環境」を作ることです。各種目、まずは10分程、丁寧に自分の体と対話しながら進めてください。

【Step 1:緩める】ベッド上ピジョン(股関節開き)

まずはガチガチに固まったお尻の外側(股関節外旋筋群)を緩めます。 椅子に座って足を組む方法もありますが、今回はより確実な「ベッドの上」で行う方法を推奨します。

■ なぜこの動きなのか?
椅子で行う場合、股関節が硬いと無意識に腰を丸めて逃げてしまい、肝心のお尻の筋肉が十分に伸びないことがよくあります。 しかし、ベッドの上であれば、太ももや下腿全体がベッドに安定して接地しているため、骨盤が後ろに倒れにくくなります。これにより、代償動作を防ぎながら、確実にお尻を伸ばすことができます。 実際、先行研究においても、脳卒中患者の股関節の柔軟性を高めることが、バランス能力や歩行速度の改善に直結することが報告されています。

■ やり方

  1. ベッドの上で投げ出すように座ります。
  2. 麻痺側の足を曲げ、数字の「4」の字を書くようにあぐらをかきます。
  3. 痛みがない範囲で、両手を使ってゆっくりと体を前に倒します。
  4. お尻の外側が「気持ちいい」と感じるところで30秒キープします。

⚠️ 注意点

  • 無理は禁物: 全く足が上がらない場合は、無理に引き上げないでください。低い台に足を乗せて膝を外に開くだけでも十分な効果があります。
  • 呼吸を止めない: 息を止めると筋肉は緊張してしまいます。深呼吸を続けましょう。

ありがとうございます。トーンを修正し、Step 2以降も作成します。

「代償動作」をあくまで「脳が選んだ効率的な戦略」として捉え、それを新しい戦略(正しい動き)に書き換えていく、というスタンスで進めます。

【Step 2:覚える】座位ヒップヒンジ(足を開いてお辞儀運動)

お尻が緩んだら、次は「股関節を蝶番(ヒンジ)のように使う感覚」を脳に再学習させます。 反張膝(バックニー)の方は、この「股関節から折れ曲がる」感覚が薄く、膝の動きに頼りがちになる傾向があります。

なぜこの動きなのか?
立った状態で練習をしようとしても、無意識に「いい方の足」に体重が乗ってしまい、肝心の麻痺側を使っている感覚が分かりにくいケースがよくあります。 しかし、座った状態であれば、お尻が椅子について姿勢が安定するため、「いい方の足に逃げる」という代償動作が物理的に難しくなります。 座ったままで股関節を正しく使う感覚がつかめると、実際の立ち上がり動作が驚くほどスムーズになります(Schenkman et al., 1990)

■ やり方

  1. 椅子に浅めに座り、足の裏をしっかりと床につけます。
  2. 背筋をピンと伸ばします。
  3. 「おへそ」を太ももの間に落とし込むイメージで、足の付け根(コマネチライン)から体を折りたたみます。
  4. お辞儀をした状態で、お尻の骨(座骨)に体重が乗っているのを感じたら、ゆっくり戻ります。

⚠️ 意識すべきポイント

  • 背中を丸めない: みぞおちから曲がるのではなく、「お尻の穴を後ろに向ける」イメージで行ってください。
  • 足裏の感覚: お辞儀をした時、足の裏全体(特に踵)で床を踏みしめる感覚があれば正解です。

【Step 3:鍛える】麻痺側引き込み立ち上がり

いよいよ仕上げです。Step 2で掴んだ「お尻を使う感覚」を、実際の立ち上がり動作の中で実践します。 これは最も効率的で、かつ「麻痺側の足を働かせやすくする環境」を作る、非常に強力なエクササイズです。

■ なぜこの動きなのか?
通常、片麻痺がある方は無意識に「いい方の足(非麻痺側)」で踏ん張って立ち上がろうとします。脳が「その方が楽だ」と知っているからです。 しかし、あえて「いい方の足を一歩前に出し、麻痺側の足を一歩後ろに引く」という足の配置にすると、力学的にいい方の足では踏ん張りにくくなります。 つまり、足の位置を変えるだけで、強制的に麻痺側の足を使わざるを得ない状況(Forced Use)を作り出すことができるのです。 実際、このフォームで行うと、通常の立ち上がりに比べて麻痺側への荷重が劇的に増え、左右のバランスが改善することが研究で証明されています 。

■ やり方

  1. 手すりやテーブルの前に立ち、手は軽く添えて安全を確保します。
  2. 麻痺側の足を一足分後ろに引き、いい方の足を少し前に出します。
  3. Step 2で行った「胸を張ったまま、お腹を地面に向ける」動きを行います。
  4. 麻痺側の足裏(特にかかと)に体重が乗ったのを感じたら、そのまま麻痺側のお尻を使って立ち上がります。

🚫 ここだけは絶対に注意してください この記事を読んでいる内股・反張膝タイプの方が最も注意すべきは、立ち上がる瞬間の膝の向きです。

  • × 膝が内側に入る(Knee-in): 膝の靭帯に頼って立っている危険な状態です。これを繰り返すと膝を痛めます。
  • ○ 膝をつま先と同じ方向(やや外側)に向ける: お尻の筋肉(中殿筋)が正しく働いている証拠です。普段麻痺側の爪先が外に開いている方は非麻痺側のつま先をしっかりと外側に向けるように注意してください。
  • ○ 対称的な荷重を意識し続ける:両足を開いてみてもつい非麻痺側に体重がのりやすいかと思いますので、ここでは安全が確認できる範囲の中で対称的な荷重を意識してください。経験上、この練習では麻痺側の骨盤やおへそが麻痺側に向きやすい方が多いので、

鏡を見ながら、「膝が絶対に内側に入らない範囲」で行ってください。もし内に入ってしまうなら、手すりをしっかり持っても構いません。回数よりも「膝の向き」を守ることが最優先です。

第3CTA – 電話相談(レスポンシブ対応)

症状のお困りごと、
お気軽にご相談ください

手足の麻痺や動きの不安感など、お身体の状態に合わせた対策をご提案します。

タップして電話で相談する ↓

よくある質問(Q&A)

1日に何回やればいいですか?

回数よりも「正しいフォーム」で数分〜10分以上行う方が効果的です。 脳卒中のリハビリでは、間違ったフォームで100回やるよりも、正しいフォームでやる方が脳にとって良い学習になります。まずは「1セット数分〜10分程度」を、朝・昼・晩など生活の隙間時間に行うことから始めてみてください。疲れてフォームが崩れたら、すぐに休憩してください。

立ち上がる時に膝が痛みます。どうすればいいですか?

膝が内側に入っている(Knee-in)可能性があります。
立ち上がる瞬間に、膝が内側に倒れていませんか? 膝の向きがつま先よりも内側に入ると、関節や靭帯に強いストレスがかかり痛みが出ます。 痛む場合は無理をせず、手すりにしっかりつかまり、鏡を見ながら「膝を少し外に向ける」ことだけを意識して行ってください。それでも痛む場合は、炎症の可能性があるため専門家にご相談ください。

なぜ麻痺側の足を「後ろに引く」のですか?

強制的に麻痺側に体重を乗せるためです。 通常、左右の足を揃えて立つと、無意識に「いい方の足(非麻痺側)」で踏ん張ってしまいます。しかし、麻痺側の足を一歩後ろに引くことで、物理的にいい方の足では踏ん張りにくくなり、自然と麻痺側の足を使わざるを得ない状況(Forced Use)を作ることができます。これは研究でも証明されている効果的な方法です 。

普通のスクワットはやらない方がいいですか?

反張膝や内股がある場合は、すぐにはおすすめできません。
一般的なスクワットは、体の自由度が高いため、無意識に「腰を反る」「いい方の足に逃げる」といった代償動作が出やすくなります。まずは今回ご紹介した【Step 3:麻痺側引き込み立ち上がり】で、誤魔化しの効かない正しい荷重感覚をマスターすることを強くおすすめします。

手すりやテーブルを持っても効果はありますか?

はい、あります。むしろ最初は必ず持ってください。
転倒への恐怖心があると、体は無意識に硬直(共収縮)してしまい、狙った筋肉が働きません。手すりを持つことで安心感が生まれ、お尻の筋肉や膝のコントロールに集中できるようになります。慣れてきたら、支える手を指先だけにするなど、徐々に頼る割合を減らしていきましょう。

まとめ:地味だけど、近道はない

今回ご紹介した3つのステップは、決して派手なトレーニングではありません。 しかし、**「物理的に代償しにくい環境」**で行うこれらの運動は、あなたの脳に「本来の体の使い方」を思い出させる、確実なルートです。

  1. ベッドで緩めて、骨盤を整える
  2. 座って股関節のスイッチを入れる
  3. 足を引いて、麻痺側で立つ

まずは明日から1週間、この3つだけを丁寧に続けてみてください。 「あれ? 歩くときに膝がカクンとならなくなったかも」 そんな小さな変化が、あなたの歩行が変わり始めたサインです。

参考文献

この記事は、以下の学術論文および科学的根拠に基づき作成されています。

  1. 股関節の柔軟性とバランス能力・歩行の関係 Kim YH, Jang HJ, Kim SY. Effect of Hip Joint Mobilization on Hip Mobility, Balance and Gait With Stroke Patients. Phys Ther Korea. 2014;21(2):8-17.
    https://doi.org/10.12674/ptk.2014.21.2.008
  2. 立ち上がり動作における体幹前傾(運動量)の重要性 Schenkman M, Berger RA, Riley PO, Mann RW, Hodge WA. Whole-body movements during rising to standing from sitting. Phys Ther. 1990;70(10):638-648.
    https://doi.org/10.1093/ptj/70.10.638
  3. 足の位置による立ち上がり動作時の荷重非対称性の改善 Roy G, Nadeau S, Gravel D, Malouin F, McFadyen BJ, Piotte F. The effect of foot position and chair height on the asymmetry of vertical forces during sit-to-stand and stand-to-sit tasks in individuals with hemiparesis. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2006;21(6):585-593.
    https://doi.org/10.1016/j.clinbiomech.2006.01.007

執筆者情報

三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士


主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年    論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』 
2022年.   書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法
p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス

その他経歴
2016年  ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任
2025年 株式会社i.L入職 NEUROスタジオ千葉の立ち上げ

現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動

スタッフの詳細はこちら