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脳卒中の再発率は10年で約5割 再発予防に不可欠な5つの生活習慣を論文に基づき徹底解説

この記事の目次

  1. はじめに:脳卒中の再発は、決して他人事ではない現実
  2. なぜ脳卒中は一度なると再発しやすいのか?
  3. 日本の脳卒中ガイドラインも示す「生活習慣の修正」の重要性
  4. 科学的根拠から導く、脳卒中再発予防に不可欠な5つの生活習慣
  5. 生活習慣の改善は本当に再発を防ぐのか?日本の研究が示す確かなデータ
  6. リハビリを「点」で終わらせない。脳卒中リハビリの本質、「ニューロサイクル」という考え方
  7. まとめ:未来の自分を守るために、今日からできること

はじめに:脳卒中の再発は、決して他人事ではない現実

脳卒中という大きな出来事を乗り越え、リハビリに励んでこられたあなたやご家族が、今最も恐れていることは何でしょうか。それは、おそらく「脳卒中の再発」ではないでしょうか。

「もう二度と、あのような辛い経験はしたくない」 「今度こそ、もっと重い後遺症が残るのではないか」 「家族にこれ以上、負担や心配をかけたくない」

こうした切実な想いは、脳卒中を経験された多くの当事者様と、それを支えるご家族に共通するものです。そして残念ながら、この不安は単なる取り越し苦労ではありません。脳卒中の再発は、極めて高い確率で起こりうる「現実」なのです。

日本の地域住民を長期間にわたって追跡した信頼性の高い研究(久山町研究)では、

脳梗塞を発症した方の10年後の累積再発率は49.7%、(Hata J, et al. 2005)

つまり約2人に1人が10年以内に再発すると報告されています。

また、世界中の多くの研究報告を統合したメタ解析(複数の研究を統計的にまとめた、最も信頼性の高い研究手法の一つ)においても、脳卒中全体の累積再発率は1年後で11.1%、5年後で26.4%、10年後には39.2%と、時間経過とともに着実にリスクが高まり続けることが示されています(Mohan KM, et al. 2011)。

これらの数字は、私たち専門家にとっても非常に重い事実です。

しかし、この記事を読んでくださっているあなたに、絶望だけをお伝えしたいわけではありません。最も重要な事実が、もう一つあります。それは、脳卒中の再発リスクは、正しい知識に基づく行動によって、ご自身の力で大幅に下げることができるということです。

そして、その鍵を握るのが、日々の「生活習慣」の改善です。

この記事では、私たち理学療法士が、最新の科学的根拠(エビデンス)に基づき、あなたの未来を守るための具体的な再発予防策を徹底的に解説します。まずは、この厳しい現実を直視することから、未来を変える第一歩を始めましょう。

なぜ脳卒中は一度なると再発しやすいのか?

なぜ一度脳卒中になると、これほどまでに再発のリスクがつきまとうのでしょうか。

その答えは、最初の脳卒中を引き起こした「根本原因」が、退院後もあなたの体の中に残り続けているからです。

少しイメージしてみてください。私たちの血管を、家の中の「水道管」だとします。長年使っていると、水道管の内側にはサビや汚れが溜まり、流れが悪くなったり、詰まったり、脆くなって破れてしまったりしますよね。

脳卒中は、まさに脳の血管でこの「詰まり(脳梗塞)」や「破れ(脳出血)」が起きた状態です。急性期病院での治療は、この詰まりを解消したり、出血を止めたりする緊急処置です。しかし、水道管そのものにこびりついたサビや汚れ、すなわち「動脈硬化」を取り除かなければ、また別の場所が詰まったり破れたりする危険性が残ったままなのは、想像に難くないでしょう。

この動脈硬化を進行させる最大の原因が、以下の「危険因子」です。

  1. 高血圧
  2. 糖尿病
  3. 脂質異常症(高コレステロールなど)
  4. 心房細動(不整脈の一種)
  5. 喫煙
  6. 過度の飲酒

これらは、日本の公式な診療指針である「脳卒中治療ガイドライン2021(改訂2023)」においても、脳卒中の再発リスクを高める要因として明確に指摘されています(Shijo K. 2023)。

実際に、滋賀県で行われた140万人規模の大規模な調査では、脳卒中を発症した方のうち、

76.7%が高血圧31.4%が糖尿病、そして38.1%が脂質異常症を合併

していたことが報告されています(Takashima N, et al. 2017)。

つまり、脳卒中の再発予防とは、単に麻痺した手足のリハビリを行うだけでなく、これらの危険因子をコントロールし、血管そのものをこれ以上傷つけないようにする「体質改善」に他なりません。

そして、その最も強力な手段となるのが、ご自身の意志でコントロール可能な「生活習慣の改善」なのです。

日本の脳卒中ガイドラインも示す「生活習慣の修正」の重要性

前章で挙げた危険因子をコントロールする上で、私たちが拠り所とするのが「脳卒中治療ガイドライン」です。

本邦の公式な指針においても、再発予防のための生活習慣の修正、例えば「高血圧の管理」「禁煙」「運動習慣」といった項目は、その有効性を示す多くの科学的根拠があることから、基本的な考え方として重要視されています(Shijo K. 2023)

いわば、これは私たち専門家にとっては「共通言語」とも言えるものです。

本当に大切なのは、この共通認識となっている「やるべきこと」を、いかにして一人ひとりの生活の中に、無理なく、かつ効果的に落とし込んでいくかという視点です。

次の章では、このガイドラインが示す方向性も踏まえながら、明日から実践できる「5つの生活習慣」について、近年の研究論文の知見も交えながら具体的に解説していきます。

科学的根拠から導く、脳卒中再発予防に不可欠な5つの生活習慣

ここからは、いよいよ脳卒中の再発予防の鍵となる、具体的な「5つの生活習慣」について解説していきます。ご紹介するのは、以下の5つの柱です。

  1. 運動習慣
  2. 食事療法
  3. 適正体重の維持
  4. 質の高い睡眠
  5. 禁煙と節酒

これらは一つひとつが重要ですが、決して無関係ではありません。例えば、運動は体重管理に繋がり、質の高い睡眠は血圧の安定に寄与するなど、互いに影響し合って、あなたの体を内側から守る盾となります。すべてを完璧にこなそうとせず、まずは「これならできそう」と思えるものから、一つずつ生活に取り入れてみてください。

それでは、私たち理学療法士の専門領域であり、すべての基本となる「① 運動習慣」から見ていきましょう。

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① 運動習慣:まず「体の柔軟性」を高めることから

「再発予防のために運動が大切なことは、頭ではわかっている。でも、一体どんな運動を、どれくらいやればいいのか…」 多くの方が、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。

ウォーキングや体操など、様々な運動が推奨されていますが、私たち専門家が、本格的な運動を始める前にまず注目していただきたいと考えているのが「体の柔軟性」です。

意外に思われるかもしれませんが、近年の研究で、この「柔軟性」と脳卒中のリスクとの間に、無視できない関係があることが示唆されています。

2018年に日本人中年男性を対象に行われた研究では、体が硬い人、特に体幹(胴体部分)の柔軟性が低い人ほど、動脈硬化の初期マーカーとされる頸動脈の壁の厚み(IMT)が増加していたり(Suwa M, et al. 2018)ストレッチなどの柔軟運動を習慣にしている人では血圧が安定する傾向(Abe T, et al. 2023)が見られたりする、と報告されています。

もちろん、柔軟性だけが全てではありません。しかし、安全かつ効果的に運動に取り組むための「重要な土台作り」として、また、リスク因子そのものへアプローチする可能性を持つ要素として、非常に重要だと私たちは考えています。

脳卒中のリハビリに関わってきた理学療法士の視点から補足すると、体が硬いと全身の血流が滞りやすくなるだけでなく、関節の動きも悪くなった結果、無理なフォームで歩いたり運動したりして体を痛めたり、さらに体を硬くしてしまう恐れもあります。まず柔軟性を確保することは、安全かつ効果的、そして効率的な運動に取り組むための、いわば「重要な土台作り」なのです。

実際に、日本人を対象とした研究では、専門家によるこのような運動指導や栄養指導を組み合わせた生活習慣への介入によって、脳卒中や心筋梗塞などの再発が大幅に抑制された(Kono Y, et al. 2013)という確かな結果も得られています。

まずは今日の夜、お風呂上がりにゆっくりと体を伸ばすことから、再発予防に向けた取り組みを始めてみませんか。

② 食事療法:「減塩」を制するものが血圧を制す

運動習慣は、いわば体の外側からのアプローチです。それと並行して、体の内側から血管の状態を支える「食事」を見直すことも、再発予防において欠かせません。この二つは、車の両輪のようなものだとお考えください。

食事で特に気をつけたいのが、多くの方がご存知の通り「減塩」です。これは、再発の最大の危険因子である高血圧に直接つながるためで、日本のガイドラインでも1日の食塩摂取量は6g未満が推奨されています。

そうは言っても、毎日の食事で厳密に管理するのは大変ですよね。難しく考えず、まずは「麺類の汁は半分残す」「醤油は“かける”より“つける”」といった、簡単な工夫から始めてみてはいかがでしょうか。また、香辛料や香味野菜、お酢やレモンなどの酸味をうまく使って味付けにメリハリをつけるのも、満足感を損なわない良い方法です。

減塩を基本としながら、魚(特にサバやイワシなどの青魚)の摂取を増やし、肉の脂身やバターといった飽和脂肪酸を控えることも、動脈硬化の予防に有効であることがわかっています。

実際に、減塩を基本に野菜や果物、魚などを中心とした食事パターン(DASH食や地中海食など)が、脳卒中のリスクを下げる(Govori V, et al. 2024)ことが複数の研究で報告されています。

③ 適正体重の維持:内臓脂肪は危険因子を増やす工場

健康的な食事は、減塩による血圧コントロールだけでなく、もう一つ非常に重要な役割を担っています。それが「適正体重の維持」です。

なぜ、体重管理が脳卒中の再発予防に繋がるのでしょうか。 それは、肥満、特にお腹周りにつきやすい「内臓脂肪」が、それ自体で脳卒中の危険因子を次々と生み出す「工場」のような働きをしてしまうからです。

内臓脂肪は、単なるエネルギーの貯蔵庫ではありません。近年の研究で、この脂肪細胞からは、

・血圧を上昇させる物質
・血糖値を下げるインスリンの働きを悪くする物質(糖尿病の原因の一つ)
・血管に慢性的な炎症を引き起こす物質

などが分泌されることがわかってきました(Bailey RR. 2018)。

つまり、肥満を放置することは、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった複数の危険因子を同時に悪化させてしまうことに直結するのです。逆に言えば、肥満を解消することは、これらの危険因子の根本にアプローチできる、非常に効率的で強力な再発予防策と言えます。

では、どのくらいの体重を目指せば良いのでしょうか。その客観的な指標となる「BMI(Body Mass Index)」です。以下の式で簡単に計算できますので、ぜひご自身の数値を把握してみてください。

BMI = 体重 (kg) ÷ {身長 (m) × 身長 (m)}

日本の脳卒中治療ガイドラインでは、再発予防のために「BMI 25未満」を維持することが推奨されています。

もし、ご自身の数値が25を超えていたとしても、過度に心配する必要はありません。なぜなら、その解決策は、これまでにお話ししてきた「① 運動習慣」と「② 食事療法」を実践することに他ならないからです。

適切な食事で摂取エネルギーをコントロールし、運動で消費エネルギーを増やす。この非常にシンプルな原則こそが、体重を減らし、血管を守るための最も確実な道筋です。

体重管理は、単に見た目の問題ではなく、体の内側から血管の健康を保つための本質的なアプローチです。まずは毎日体重計に乗ってご自身の体の変化を記録することから、体質改善への取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

④ 質の高い睡眠:見過ごされがちな最高のメンテナンス

運動、食事、そして体重管理。これらの日中の努力を支え、傷ついた血管や体を修復するために不可欠なのが、見過ごされがちですが極めて重要な「質の高い睡眠」です。

睡眠は、単なる休息の時間ではありません。日中に受けた体へのストレスや血管へのダメージを修復し、血圧や血糖値をコントロールする自律神経・ホルモンのバランスを整える、体にとって最高のメンテナンス時間なのです。

睡眠時間と脳卒中リスクの関係については、日本で行われた大規模な研究が重要な示唆を与えてくれます。岐阜県高山市の住民約3万人を16年間追跡したこの研究では、1日の平均睡眠時間が7時間の人たちに比べて、7時間未満と睡眠が短い人たちでは、脳卒中で死亡するリスクが1.55倍も高かった(Kawachi T, et al. 2016)と報告されています。また、9時間以上の長すぎる睡眠でもリスクが上昇する傾向が見られ、睡眠は短すぎても長すぎてもよくない可能性が示唆されました。

さらに、睡眠は「時間(量)」だけでなく、「質」も同様に重要です。特に注意が必要なのが、睡眠の質を著しく低下させる「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。

SASは、睡眠中に気道が塞がって一時的に呼吸が止まることを繰り返す病気です。呼吸が止まるたびに体は深刻な低酸素状態に陥り、それを補おうと心臓や血管に大きな負担がかかり、血圧が急上昇します。この夜間の血圧上昇が、脳卒中の引き金となりうるのです。

「大きないびきをかく」「日中に耐え難い眠気がある」といった症状はSASのサインかもしれず、脳卒中治療ガイドラインでもSASの適切な診断と治療が推奨されています。

では、どうすれば質の高い睡眠を得られるのでしょうか。今日から試せるいくつかのヒントをご紹介します。

  • 体内時計を整える: 休日でもなるべく同じ時間に起き、同じ時間に寝ることを心がけましょう。朝起きたらカーテンを開け、太陽の光を浴びることも体内時計のリセットに有効です。
  • 就寝前の光を避ける: スマートフォンやPCの画面から出るブルーライトは、脳を覚醒させ、自然な眠りを妨げます。就寝1〜2時間前には使用を控えるのが理想です。
  • 食事・嗜好品に注意する: 就寝直前の食事は内臓に負担をかけ、眠りを浅くします。カフェインやアルコール、喫煙も睡眠の質を悪化させるため、就寝前の摂取は避けましょう。
  • リラックスできる環境を作る: ぬるめのお湯にゆっくり浸かる、落ち着く音楽を聴く、部屋を暗くして静かな環境を保つなど、自分がリラックスできる入眠儀式を見つけましょう。

質の高い睡眠は、それ自体が強力な「降圧剤」や「血管の修復薬」のようなものです。今夜から、ご自身の睡眠環境や就寝前の習慣を一つ見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

⑤ 禁煙と節酒:努力を無駄にしないための絶対条件

ここまで、運動、食事、体重管理、睡眠という、体をより良くしていくための4つの習慣について解説してきました。しかし、これらのポジティブな努力の効果を、著しく損なってしまう可能性のある習慣が二つあります。それが「喫煙」「過度の飲酒」です。

禁煙:議論の余地なき最重要課題

まず、結論から申し上げます。脳卒中の再発予防を本気で考えるのであれば、禁煙は議論の余地なく、絶対に取り組むべき最重要課題です。

タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素などの有害物質は、

・血管を急激に収縮させ、血圧を上昇させる

・血液をドロドロにし、血栓(血の塊)を作りやすくする

・血管の内壁を直接傷つけ、動脈硬化を爆発的に進行させる

といった形で、血管に計り知れないダメージを与えます。タバコを1本吸うことは、自ら血管にダメージを与え、再発のリスクを高めていることと同義なのです。

実際に、日本人約1万人を14年間追跡した大規模な調査(NIPPON DATA80)では、タバコを吸う人は吸わない人に比べて、脳卒中で死亡するリスクが男性で2.07倍、女性では3.89倍にも達することが報告されています(Ueshima H, et al. 2004)。この結果を受け、脳卒中治療ガイドラインでも、禁煙は再発予防のために最も強く推奨される項目の一つ(推奨度A)とされています(Shido K. 2023)。

「わかってはいるけど、やめられない。」しかし、その意志の力だけでは乗り越えがたいのがニコチン依存症です。今は、禁煙外来で健康保険を使いながら、ニコチンパッチや内服薬といった効果的な治療を受けることができます。ご自身の力だけで抱え込まず、ぜひ専門家の力を借りてください。

節酒:リスクを正しく理解し、適量を守る

次にお酒についてです。「適量のアルコールは体に良い」と聞いたことがあるかもしれませんが、脳卒中を一度経験された方にとっては、その「適量」の判断が非常に難しく、過度の飲酒は再発の大きな引き金となります。

過度の飲酒は、高血圧や不整脈(心房細動)、脂質異常症の直接的な原因となるほか、カロリーの過剰摂取による肥満にも繋がります。

ガイドラインでは、飲酒習慣のある方に対して「節酒」が推奨されており、その目安は1日あたり純アルコール換算で20〜25g以下とされています。具体的には、

・ビール:中瓶1本(500ml)

日本酒:1合(180ml)

ワイン:グラス2杯弱(200ml)

焼酎(25度):0.6合(約110ml)

のいずれか、となります。

ただし、これはあくまで上限であり、飲まないに越したことはありません。特に、血圧のコントロールがうまくいっていない方や、他の危険因子を多く持つ方は、原則として禁酒を目指すのが最も安全な選択です。必ず、かかりつけ医に相談の上、ご自身にとって適切な飲酒量を判断するようにしてください。

禁煙と節酒は、長年の習慣を変える、最も難しい挑戦の一つかもしれません。しかし、その分、達成できた時の再発予防効果は絶大です。この挑戦もまた、専門家と共に乗り越えていくことができます。

生活習慣の改善は本当に再発を防ぐのか?日本の研究が示す確かなデータ

さて、ここまで5つの生活習慣について解説してきました。読者の方の中には、「理論はわかったが、果たして生活習慣を変えるだけで、本当に再発を防げるのだろうか」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

その疑問に答える、ひとつの重要な日本の研究があります。 これは、脳梗塞を経験された方を対象に、専門家による生活習慣への介入がどのような結果をもたらすかを、科学的に検証したものです(Kono Y, et al. 2013)。

専門家による生活習慣への介入が再発を抑制する効果

出典: Kono Y, et al. Cerebrovasc Dis. 2013;36:88-97. を基に作成

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この研究では、対象となる患者さんを2つのグループに分けました。 一方は、医師による通常のケアを受けるグループ。 もう一方は、その通常のケアに加え、理学療法士による運動指導と管理栄養士による栄養指導を6ヶ月間、集中的に受けるグループです。

その上で、両グループのその後の経過を平均3.6年にわたって追跡しました。

その結果、理学療法士や管理栄養士のサポートを受けたグループは、そうでないグループに比べ、脳卒中の再発を含む新たな血管イベントの発生率が大幅に低くなるという、非常に明確な差が見られました。

この結果が示すのは、医師による投薬治療などに加え、生活習慣そのものへ専門的にアプローチすることが、再発予防において極めて有効な「治療戦略」となりうるということです。そして、その介入において支援者が重要な役割を担うことを強く示唆しています。

リハビリを「点」で終わらせない。脳卒中リハビリの本質、「ニューロサイクル」という考え方

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前の章で、専門家と取り組むことで再発リスクが大幅に下がるというデータをご紹介しました。なぜ、これほど大きな差が生まれるのでしょうか。

もちろん、第三者に見てもらうことでのモチベーション維持や、医学的に正しい知識を得られるという点も大きな理由です。しかし、私たちはその本質を、リハビリの“当たり前”といえるそのプロセス一つひとつに、どこまで誠実に向き合えるかという点にあると考えています。

リハビリを、施設で行う特別な「点」のイベントで終わらせない。その方の24時間という「線」の生活の中にどう溶け込ませ、良い変化に繋げていくか。 この、リハビリテーションの根幹とも言える考え方を、私たちは**「ニューロサイクル」**と呼んで実践しています。

これは、

  1. リハビリの時間(ON):専門家があなたの体を正確に評価し、あなたに合った運動や動作の「コツ」をインプットする時間。
  2. 日常生活(OFF):ONの時間で見つけた「コツ」を、ご自宅での生活の中で意識して実践(アウトプット)する時間。
  3. フィードバック:次のリハビリの時間に、OFFでの実践結果を専門家と共有。その結果を踏まえて課題を修正し、次のステップへと進む。

という、「評価 → 実践 → 修正」の好循環(サイクル)を回し続けるアプローチです。

この理想的なサイクルを、一つひとつ丁寧に回していくためには何が必要でしょうか。 それは、クライアント様一人ひとりの体の状態や生活背景を深く理解し、最適な道筋を描き出すための「専門的な知見」と、そのプロセスにじっくりと取り組むための「時間」です。

体の評価、動作の分析、生活の中での実践、そして対話を通じた軌道修正。このサイクルの一つひとつの質を高めていくことこそが、リハビリの質そのものに繋がり、ひいてはクライアント様の未来をより良いものに変えていくと、私たちは信じています。

「ニューロサイクル」とは、目新しい魔法のメソッドではありません。リハビリの原点に立ち返り、クライアント様一人ひとりに深く向き合う、どこまでも誠実なアプローチです。

この記事を通して、ご自身の再発予防について、そしてリハビリの本来あるべき姿について、少しでも新しい視点を感じていただけたなら、これ以上の喜びはありません。

まとめ:未来の自分を守るために、今日からできること

本記事では、脳卒中の再発という厳しい現実と、それを乗り越えるための具体的な「5つの生活習慣」について、科学的根拠を基に解説してきました。

・脳卒中の再発率は10年で約5割と非常に高いこと。

・しかし、①運動 ②食事 ③体重管理 ④睡眠 ⑤禁煙・節酒 という生活習慣の改善によって、そのリスクは大幅に下げられること。

・特に、専門家と共に行う生活習慣へのアプローチは、再発リスクを半減させるほどの力を持つこと。

・そして、その効果を最大化する鍵は、リハビリを生活の中に溶け込ませ、「評価→実践→修正」の好循環を回し続ける『ニューロサイクル』という考え方にあること。

大切なのは、すべてを一度に完璧にやろうとしないことです。まずは、この記事で紹介した中から「これならできそう」と思えることを一つ、今日の生活から意識してみてください。麺類の汁を少し残す、寝る前に5分だけストレッチをする。その小さな一歩が、間違いなくあなたの未来を守るための大きな一歩となります。

再発への不安は、正しい知識と行動、そして信頼できる専門家との出会いによって、未来への自信に変えることができます。あなたの挑戦を、私たちはいつでもサポートします。

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私たちの脳卒中リハビリの専門性へのこだわり 

【免責事項】 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の治療法を推奨するものではありません。ご自身の健康状態や治療に関しては、必ずかかりつけの医師や担当の療法士にご相談ください。

参考文献

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執筆者情報

三原拓(みはら たく)
ニューロスタジオ千葉 理学療法士


主な研究業績
2016,18年 活動分析研究大会 口述発表 応用歩行セクション座長
2019年   論文発表 ボバースジャーナル42巻第2号 『床からの立ち上がり動作の効率性向上に向けた臨床推論』 
2022年   書籍分担執筆 症例動画から学ぶ臨床歩行分析~観察に基づく正常と異常の評価法 p.148〜p.155 株式会社ヒューマン・プレス

その他経歴
2016年 ボバース上級講習会 修了
2024年 自費リハビリ施設 脳卒中リハビリパートナーズhaRe;Az施設長に就任

現在の活動
ニューロスタジオ千葉 施設長
脳卒中患者様への専門的リハビリ提供
療法士向け教育・指導活動

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