研究の背景と目的
胸腰筋膜後層は、脊椎、骨盤、脚、腕の間の荷重伝達において重要な役割を果たしている可能性がある
本研究では、10体の人体標本を用いて、胸腰筋膜後層の解剖学的構造と、様々な筋肉による牽引が筋膜に与える影響を調査
研究方法
65歳から90歳の10体の人体標本(男性6体、女性4体)を使用
ラスター写真技術を用いて筋膜の表層と深層を観察
50Nの張力を様々な筋肉(広背筋、殿筋群など)に加え、筋膜の動きを測定
主な発見
1. 解剖学的構造
・胸腰筋膜後層は表層と深層に分かれており、それぞれ異なる筋肉と連結している
・表層は広背筋、大殿筋、外腹斜筋と連続している
・深層は仙結節靭帯と連続しており、脊柱起立筋を包んでいる


2. 運動学的特性
・広背筋の収縮は胸腰筋膜の表層に張力を生じさせる
・大腿二頭筋の緊張は深層に影響を与え、L5-S1レベルまで伝達される
・大殿筋と広背筋の連動によって、脊椎から骨盤と脚への効果的な荷重伝達が可能になる
3. 臨床的意義
・仙腸関節(SI関節)の安定性と荷重伝達には、胸腰筋膜を介した筋肉の適切な連携が必要
・仙腸関節の問題は単に局所的な問題ではなく、荷重伝達システムの障害である可能性がある
・骨盤帯の不安定性(産後の骨盤痛など)は骨盤ベルトによって改善できる可能性がある
結論
・胸腰筋膜後層は体幹の回転と下部腰椎・SI関節の安定化において重要な役割を果たしている
・特に大殿筋と広背筋の適切な連携が重要であり、これらの筋肉のトレーニングが腰痛治療に有効である可能性がある
・従来の「腰」「骨盤」「脚」などの解剖学的区分は機能的には不適切で、これらは統合されたシステムとして理解すべき
臨床的意義
リハビリテーションにおいて「部位別」から「機能的連鎖」への視点の転換を促している点にあります
特に腰痛治療において、胸腰筋膜を介した筋肉間の協調した機能を重視したアプローチは、より効果的な治療結果をもたらす可能性があります
広背筋と殿筋群の機能的連携を強化し、胸腰筋膜後層の適切な張力を維持することで、脊椎から脚への効率的な荷重伝達を促進し、腰部安定性の向上と腰痛の軽減につながる可能性があります
参考文献
Vleeming et al. The Posterior Layer of the Thoracolumbar Fascia Its Function in Load Transfer From Spine to Legs. 1995
NEUROスタジオ東京