この研究は電気刺激による筋収縮を誘発する2つの方法—末梢神経刺激(PNS)と運動点刺激(MPS)—の神経経路の違いを調査したものです
研究背景と目的
末梢神経刺激(PNS):神経幹に刺激を加え、その神経が支配する筋を収縮させる
運動点刺激(MPS):筋腹の最も反応しやすい部位(運動点)に直接刺激を加える
PNSで活性化される神経経路は広く研究されているが、MPSの経路はまだ不明確
本研究の目的は、MPSがIa感覚神経を活性化するか、また運動神経の逆行性発火を誘発するかを調査
実験方法
10名の健常者(男女)が参加
4つの実験を実施:
1. ヒラメ筋におけるMPSとPNSのM波とH反射の誘発パターン比較
2. 前脛骨筋のMPSとPNSによるヒラメ筋への相反抑制効果の検証
3. 刺激間隔の違いによるMPSのH反射への影響
4. 刺激強度の違いによるMPSのH反射への影響

結果
1. ヒラメ筋へのMPSではH反射が誘発されなかったが、PNSでは明確なH反射が観察された

2. 前脛骨筋へのMPSはヒラメ筋の相反抑制を引き起こさなかったが、PNSでは引き起こした

3. ヒラメ筋へのMPSは条件刺激と検査刺激の間隔が100ms以下で、刺激強度が30mA以上の場合にH反射抑制を引き起こした
4. これらの結果はMPSが主に運動神経を活性化し、Ia感覚神経をほとんど脱分極させないことを示唆している
結論
MPSは主に運動神経を活性化し、Ia感覚神経をほとんど活性化しない
MPSによる逆行性発火は後過分極を誘発し、運動ニューロンの興奮性に影響を与える
PNSに比べMPSはより多くの筋に適用できるため、脊髄のより多様な神経調節に利用できる可能性がある
臨床的意義
・機能的電気刺激(FES)への応用
MPSは臨床現場で機能的電気刺激(FES)として広く使用されており、この研究はその神経生理学的メカニズムを解明することで、より効果的なFES治療プロトコルの開発に貢献できます。
MPSが主に運動神経を活性化するという知見は、より正確で効率的な筋収縮を目的とするFES設計に役立ちます。
・より多様な筋への適用可能性
研究では「MPSはPNSと比較してより多くの筋に適用できる」と述べられており、身体の様々な部位での神経筋機能の調節に応用できる可能性があります。
特に解剖学的に末梢神経へのアクセスが困難な筋群への治療アプローチとして有用です。
・脊髄神経調節への新たなアプローチ
運動ニューロン興奮性の制御は痙性や運動障害の管理に重要であり、MPSはその調節ツールとなり得ます。
・感覚神経活性化の最小化
MPSがIa感覚神経をほとんど活性化しないという特性は、感覚神経の過剰刺激による不快感を最小限に抑えながら効果的な筋収縮を得られることを意味します。
参考文献
Kento Nakagawa et al. Motor point stimulation primarily activates motor nerve. 2020
NEUROスタジオ東京