除神経筋の3つの段階
筋肉が神経支配を失うと、以下の3段階を経て変化します:
第1段階(直後〜2ヶ月)
– 即座の機能停止と急速な筋量減少
– 1ヶ月で筋量の90%を失うが、まだ回復能力は保持
第2段階(2-7ヶ月)
– 筋萎縮の進行と筋線維構造の破綻
– 回復能力が著しく低下
第3段階(7ヶ月以降)
– 筋線維の変性と線維性結合組織・脂肪組織による置換
– 回復能力はほぼ失われる
主要な変化
筋線維レベル
– 萎縮:タイプII線維(速筋)がタイプI線維(遅筋)より急速に萎縮
– 構造変化:筋原線維の配列乱れ、アクチン・ミオシン線維の消失
– 核の変化:筋核数の減少、核の分布異常(数珠状配列)
組織レベル
– 毛細血管の減少:18ヶ月で90%減少
– 線維化:コラーゲン線維の蓄積
– 脂肪浸潤:特に赤筋でより顕著
興味深い発見:再生能力の存在
除神経筋では萎縮と並行して、以下も起こります:
– 衛星細胞の活性化:筋再生に関わる細胞が増加
– 新しい筋線維の形成:機能的電気刺激により活用可能
臨床的意義
治療法
1. 神経修復:短期間の除神経には有効だが、12-18ヶ月を超えると効果限定的
2. 機能的電気刺激(FES):2年以内であれば筋機能の改善が可能
種差
– 実験動物:数ヶ月で変化が完了
– ヒト:同様の変化に数年を要する
重要なポイント
この研究により、従来「不可逆的な萎縮」と考えられていた長期除神経筋にも再生能力が残存していることが明らかになりました
適切な刺激(FES等)により、一定期間内であれば機能回復が期待できることは、リハビリテーション医学において重要な知見です
ただし、時間の経過とともに回復能力は著しく低下するため、早期の介入が極めて重要であることも示されています。
*補足
速筋(タイプII線維)の早期萎縮の理由
代謝特性の違い
速筋:解糖系に依存、神経刺激に強く依存
遅筋:酸化的代謝、より自律的な代謝維持能力
神経依存性
速筋は神経からの高頻度刺激に適応しているため、神経切断の影響をより強く受ける
遅筋は低頻度の持続的活動に適応しており、神経切断後もより長く構造を維持
遅筋により多い脂肪浸潤の理由
代謝環境の変化
遅筋は本来、豊富な毛細血管網と酸化的代謝システムを持つ
除神経により毛細血管が減少すると、酸化的代謝の場が脂肪組織に置き換わりやすい
組織構造の特徴
遅筋の間質組織は脂肪細胞の侵入・定着により適している可能性
速筋は急速に萎縮するため、脂肪浸潤よりも線維化が先に進行
時間経過の違い
速筋:急速萎縮 → 早期の線維化
遅筋:緩徐な萎縮 → 長期間にわたる脂肪浸潤
生物学的意味
この違いは、各筋線維タイプの元々の機能的特性を反映していると考えられます
速筋:瞬発力重視、神経制御への高依存性
遅筋:持久力重視、代謝の自律性
除神経という病的状態でも、これらの基本特性が変性パターンに影響を与えている
参考文献:
Carlson. The biology of long-term denervated skeletal muscle. 2014
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